毎年、中学入試に向かう子どもたちを見ているなかで、私が感じていること、それは「諦めないこと」の大切さです。精神論か…と思われる方もいるかもしれません。ですが、まだ11、12歳の子どもたちが自分の一生を左右する受験に向かいます。どれほどの努力を重ねても入試当日に、緊張や不安から力を発揮できないということは少なくありません。実力を出し切るために必要なこと、それは最後まで「諦めない」気持ちです。
私がそう実感する中学受験を経験したKくんの話です。
Kくんの第一志望の中学校は難関校と呼ばれる学校でした。Kくんは、考えることが大好き。難しい問題にも楽しみながら取り組むことができていました。ただ、「受験」ということでは、かなり苦戦をしていました。
12月、最後の外部模試がありました。結果は芳しくなく、合格圏とはかなり差がありました。夏休み前であれば挽回も可能かもしれませんが、12月という時期から考えると厳しい状況でした。
この結果を受け、Kくんのお母さまと面談をしました。正直に、第一志望の学校を受験することはかなり厳しいので、志望校を変更したほうがよいのでは…とお話をしました。お母さまもそのことはわかっていましたが、「Kがまったくあきらめていない」とおっしゃいました。
Kくんには、将来なりたい職業がありました。それは宮大工。古くからの建築物にかかわる姿に憧れたそうです。また、Kくんはラグビーをしており、中学生以降はラグビーをやりたいとも言っていました。
第一志望の学校に行きたい理由も宮大工になることと、ラグビーをすることの両方をかなえるためでした。Kくんの意志は固く、第一志望の中学校に行くことをあきらめていないとのとこと。お母さまもその気持ちを無下にはできないということで、12月の面談では、結論を出さず、もう少し様子を見ることにしました。 また、Kくん本人にもこのままでは厳しいこと、本気で目指すなら残りの2か月、頑張ってみることを伝えました。
それからのKくんの取り組みは、本当に「すごい」の一言でした。過去問を解き、できなかったところを復習しました。自分の苦手な教科は基本的なところを繰り返しやり、得意な教科はより難易度の高い問題に取り組みました。毎日自学室に通い、その都度わからないことは質問しました。そのとき「やるべきこと」に取り組み続けました。
そんな取り組みをみた私は、彼を勇気づけるつもりで、こう話しました。
「最近よく頑張っているね。このまま第一志望に合格したら、この校舎の伝説になるくらいの結果だよ。」
彼は、
「そんなに?伝説になってみせますよ。」
と照れたように、そしてまんざらでもない様子で答えてくれました。偏差値だけを見れば、合格をしたら本当に伝説になるくらい難しい状況でした。
1月、Kくんのお母さまと受験校を決定する面談を行いました。12月、冬期講習の様子を見て、お母さまは
「2月1日は第一志望学校を受験させたいです。ここまで来たら、Kの思うようにさせたい。」
とおっしゃっいました。私としても、彼のここまでの取り組みを見て、受験をしないことが彼の今後の人生にとってマイナスになると判断し、受験することになりました。
2月1日。中学校に向かうKくんと話すことができました。Kくんは、とてもすがすがしい顔をしていました。こちらからの問いかけにもしっかりと反応してくれました。最後に
「いってらっしゃい。いつも通り、全力で!」
と伝えると、
「いってきます!」
と力強く言ってくれました。緊張はしているけれど、いい緊張感。地に足のついた良い状態だなと感じました。
結果が出たのは、2月3日。
「合格しました!」
と、Kくん本人が、校舎に電話をかけてくれました。その声を聞いた瞬間、これまでのことが脳裏をよぎり、私は思わず涙がこぼれました。
「おめでとう…、よかったね…」
と返すのが精一杯でした。彼は、すぐさま、
「伝説になりましたか?」
と一言。覚えていてくれたのかと思いつつ、涙をこらえることに精一杯で、
「そうだね…」
と返すしかできませんでした。本当にがんばりました。
Kくんが合格を勝ち取れた理由。それはやはり、彼が最後まで諦めなかったことだと思います。
「諦めない」という気持ちだけではどうにもならないこともあります。ですが、彼が最後まで努力し続けることができたのは、Kくんのなかに「諦めない」気持ちがあったからだと感じます。
中学受験は子どもたちの気持ちが試されます。なかなか勉強に向かいあえないときもあります。模試の結果を受けて、心が折れたり、弱気になったり、やる気もなくなったりしてしまうときもあります。そんななかでも「諦めない」気持ちを保つにはどうすればよいか。
自分の意思も大切ですが、私はご家族の存在が大きいと感じています。Kくんのお母さまも、Kくんの頑張る姿を見て、彼を信じ、寄り添うことを考えていらっしゃいました。ときには厳しく伝えることもあったようですが、Kくんの諦めない姿勢を最後まで応援し、見守ってくれました。
子どもたちがつらいときに頼ることができるのは、やはりご家族です。スクールFCでは、ご家族が子どもたちの一番のサポーターになってほしいとお話ししています。つらいときに子どもたちを後押しする存在でいてほしいと思います。
Kくんのように、誰しもが第一志望に合格できるかどうかはわかりません。ですが、どんな状況でも最後まで諦めないように励ましていただくことが、子どもたちの力になるはずです。
中学受験は毎年続きます。Kくんのような諦めない気持ちをもって受験に臨んでくれるよう、子どもたちを支え、後押しをしてていきたいと改めて感じました。
スクールFC 原誠(2021年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員のみなさまにお渡ししています。