【花まるコラム】『置かれた場所で咲きなさい』根本沙織

【花まるコラム】『置かれた場所で咲きなさい』根本沙織

 先日3年生の女の子Kが書いた作文を読んで、高校生のときのある出来事を思い出しました。

 高校3年生の冬といえば、まさに受験シーズン。私も数年前に大学受験を経験しました。高校3年の夏までは部活に励み、引退試合が終わってから本格的に受験モードに入りました。第一志望の学校は、当時の私の成績から考えるとかなり努力が必要な学校でした。それでも「絶対に受かるんだ!」という想いを捨てずに、最後まで第一志望を変えずに受験日を迎えました。受験当日は緊張したものの、そのときの自分の力は出し切ることができ、後悔はしていません。それでも現実は厳しいもの。最後まで第一志望の大学から「合格」の通知がくることはありませんでした。最終的に滑り止めで受けて合格をもらった大学に進学を決めたのですが、心のなかのもやもやする感情が晴れない日が続きました。やれることはやった、テスト当日も全力で頑張った、それなのになぜ気持ちが晴れないかと考えたとき、原因は親に対する申し訳ない気持ちがあるからだと気づきました。電車で1時間近くかかる塾に通わせてもらって、お金も時間もかけてもらったのに叶わなかった第一志望校合格。親に対する申し訳ない気持ちと情けなさで晴れない心、そんなときにかけられた母からの言葉をいまでも覚えています。暗い部屋のなか、母がそっと私に歩み寄り、「沙織は最後まで頑張ったよ。結果はのぞんでいたものではなかったもしれないけれど、きっと努力したら幸せになれるという道がこの結果だと思う。悔しい気持ちもあると思うけれど、その気持ちはきっとこれからの糧になるよ」母からのこの言葉のあと、心がすっと軽くなった感覚はいまでも忘れません。

 Kちゃんが書いた作文は、大好きなお母さんとの出来事。

ママとマーマレードをたっぷりぬってパンを食べようとしたら、おちゃをこぼしてしまいました。そのおちゃがマーマレードを入れていたお皿の中に入ってしまって大パニックです!でも、そのマーマレードをパンにぬってママとたべたらとてもおいしかったです。ママは『マーマレードにお茶を少しいれてのんでみてもいいかもね』といっていました。だから私は、たまにはしっぱいもいいなと思いました。

 このKちゃんの作文を読んで、ふと当時の母の言葉を思い出しました。いま思えば、大学受験がすべて終わったとき、一番辛かったのは私自身ではなく、第一志望に落ち、涙する私を見ていた母だったかもしれません。このとき「辛かったね」という言葉をかけることもできたかと思いますが、母はきっと当時の私に必要だと思う言葉を考えて「これでよかったんだよ」と声をかけてくれたのでしょう。その母の言葉が私のなかの“失敗”を“成功”に変えてくれたのだと実感しています。改めて「母」の存在は偉大だなと感じました。
 これは私だけでなく、子どもたちにとっても同じ。保護者のみなさまの言葉が、子どもたちにとって「もう少しやってみよう!」「きっとできる!」、と大きな壁にぶつかっても頑張るエネルギーになっています。当時の母の言葉があったからこそ、「この道で頑張ろう」と思い、その先で花まるに出会い、いま教室で子どもたちと保護者のみなさまに会うことができたのだと思うと、改めて母に対して感謝の気持ちでいっぱいになりました。当時、少し恥ずかしくて直接伝えられなかった「ありがとう」を、今度母に会ったときに伝えたい。そう思わせてくれたKちゃんの作文でした。

花まる学習会 根本沙織(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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