【花まるコラム】『またいつか会える日を』伊藤健吾

【花まるコラム】『またいつか会える日を』伊藤健吾

 受験の都合により、1月いっぱいで退会することになった4年生のUちゃん。平日も土曜日も授業やテストで都合がつかなくなり、それでも仕方のないとのことで、ご家庭でも十分に話し合ったうえでの退会でした。

 「えーーやだやだやだやだ!やっぱり続けたいよ!」
どうやら、授業後の挨拶をしてすぐお母さんの元に向かったUちゃんは、まだ諦めきれていない様子でした。私も含め、前々から相談していたことではありますが、これで本当に最後だということを実感し、さまざまな気持ちがこみ上げてきたようです。
「だって向こうだと、こんなに発表できないじゃーん!」
その日は特別授業、思考実験大会(発想力や思考力を問う、ゲーム形式の特別授業)でした。普段からお絵描きやかけっこなど、自由に遊ぶことが好きなUちゃんが大活躍した回でもあり、なおさらこれから取り組むことになる受験向けの授業との雰囲気の違いを身に染みて感じていたようでした。

 そして何より、同じく受験勉強に向き合っているYちゃんと離れてしまうのも、Uちゃんにとってとても名残惜しいことのようでした。
 毎週山のように出る宿題。定期的にある塾のテスト。そしてその結果で決まるクラス替えのプレッシャー……。本当はもっとみんなと楽しく勉強していたいし、もっとみんなとお話ししていたい。そういった不安や葛藤は、口には出さずともお互いに理解し合っているようでした。“受験戦争”に立ち向かっていくのですから、いつ不安に押しつぶされそうになっても不思議ではありません。最後の覚悟を決めるにも、やはりどうしても時間がかかるようでした。

 「またおいで。勉強に疲れちゃったときに顔出しにきてもいいし、ほかの子たちと一緒に遊びにきてもいいからさ」
私からそう声をかけると、2人は少しほっとしたようでした。
 実はこの2人が教室で出会ったのは、つい最近のこと。勉強をなかなか好きになれず、それでも向き合っていこうと今年度から花まるに入会したUちゃん。別の受験塾とかけもちでも宿題は投げ出さず、常にまわりへの気遣いや笑顔を絶やさなかったYちゃん。
 “勉強する場所”というだけで心に壁を作っていた初対面のUちゃんに、一番最初に声をかけたのもYちゃんでした。いつも当たり前のようにそばにいた2人。少しでも長く一緒にいようと、最後にいろいろなお話をしていました。

 そして、お別れの時間がやってきました。もう何年も仲良くしていた友達が転校してしまうかのように、別れを惜しみながら最後の挨拶を交わしました。
「これまでずっと仲良くしてくれてありがとね」
「ううん、こちらこそ。いままでありがとね。バイバイ」
「元気でね。またいつか会おうね」
 子どもたち同様、受験に向けての悩み相談で仲良くなったお母さま同士も連絡先を交換をし、2人もまた会うことを約束して帰っていくところでした。
 私は最後に、「Uちゃんさようなら!元気でね!」と声をかけて見送りました。すると、部屋を出かけていたUちゃんは一度立ち止まり、くるっとこちらに向き直って一言。
「“また”、ね!」
先ほどまでの憂鬱そうな表情が嘘のように、晴れ晴れとした笑顔で教室を後にしていきました。またいつか、絶対に会える日がくるはずだというように。

 受験勉強というのは、合格不合格の結果が出ればそれで終わり(ゴール)ではありません。むしろその過程でどんなことを学び、今後の人生でどんなふうに活かしていくのかのほうが大事になってきます。たとえその結果が望まないものだったとしても、その人の人生を幸せに彩ってくれるものであれば、何よりも価値のある時間だったということです。

 私たち大人が子どもたちの成長にかかわっていけるのは、それほど長い時間ではありません。だからこそ、私たちの元を離れてからも、自分の力で成長し続けていってほしいと願っています。そして大きくなった子どもたちにも、“また”いつか会える日がきますように。

花まる学習会 伊藤健吾(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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