4月頭、「お久しぶりです」というタイトルの、一通のメールが届きました。「お元気ですか?新年度の準備で忙しいですよね。そんななか、すみません。私もついに高校1年生になりました!いまは友達作りにワクワクしています。今年はサマースクールやるかなぁ。開催したら絶対リーダーをやりたいです!面接も受けます!」と力強いメッセージをくれたのは、2年生から卒業までを担当した教え子、Yでした。
すぐに、電話をしました。入学したばかりの高校では、コロナウイルスの影響で、週4日のオンライン授業が行われており、友達ともまともに会えていないとのことでした。こうした状況にもかかわらず、「大丈夫!始まったら友達はあっという間にできるから!」「バスケット部に入ろうと思って!」とこれから訪れる高校生活に対してワクワクしている彼女を、逞しいなと思いました。そして、本格的に「獣医」の道を歩みたい、と自分の夢を語ってくれました。
自分の道を見つめ、歩みはじめた彼女ですが、実は、友達関係に苦労をしていた過去があります。花まるに通い始めた頃は、身体もか細く、絵本から飛び出してきたような優しい雰囲気を纏った少女でした。夏休みには、学校で飼っているウサギや亀、虫に餌をあげに行き、学校が完全休校になるときには、自宅で引き取って世話をするほど、生き物が大好きな優しい長女でした。
ある日、お母さんが深刻そうな顔で「登校拒否になりました」とご相談くださいました。きっかけは、小学校で席替えをし、隣になった男の子にからかわれた、ということ。話を聞き進めると、その話に違和感を持ったのです。「あれ、お母さん、その男の子、Yちゃんのことが好きなのでは?」と聞いてみました。「私もそうだと思うのですよね。相手が言った冗談も真に受けすぎる。感受性が強いのだと思うけど…。初めてのことに弱いんです」と悩んでいらっしゃいました。
「これからYが生きていく人生には、いろいろな人がいるし、葛藤がでてくるので、ちょっとやそっとのことで揺るがない強いメンタルを育ててあげたい」というお母さんと、作戦を立てることにしました。それが「サマースクール」です。
「生き物好き」という点から、「花と虫の王国」という、当時あったコース(初めての子にオススメのコース)に申し込んでいただき、「花まるに通う子は、みんな参加するものだよ」と伝えていただきました。私とお母さんに説得されたYは、日程が近づくにつれて「もう行くしかないんだな」と観念し、参加しました。
サマースクール後、授業で顔を合わすと、「むっちゃくちゃ楽しかったよ!先生!」とこれまで見たことのないニッコニコの笑顔で、思い出を次から次へと伝えてくれました。その後は、からかわれても冗談で返すという処世術を知り、自信を得て、花まる野外体験イベントの常連となりました。たくさんの仲間もできました。
数年後、私がスタッフとしてYが宿泊する宿の担当になる機会がありました。Yが小学4年生のときでした。初めての参加で目に涙をなじませている子に、変顔で緊張をほぐしてあげていたり、冗談を言ったり、手を握ってあげたり。チームのムードメーカーとして、しかける側にまわるYの姿がありました。後日、なぜあんな形で小さな子とかかわったのか、と尋ねてみると、自分も同じようにしてもらった、とのこと。
また、数々の野外体験を経た彼女に相談したことがありました。「サマースクールに行きたくないっていう子が増えているんだよね」と。「もったいない!私なんて、どうして小1から花まるに入らなかったんだろう、っていまだに後悔しているのに」という答えが返ってきました。後日、Tという男子とともにYから「初めての子たちの心の扉を開けてあげたい」と申し出があり、一緒に「初めてサマー説明会」というイベントを立ち上げたこともあります。このイベントの成功も、彼女を大きく変えました。
少しの勇気が世界を大きく広げていくきっかけとなるサマースクール。今年もまた、子どもたちのどんなドラマが繰り広げられるのか楽しみです。
花まる学習会 舘岡聡美(2021年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。