【花まるコラム】『好きを味方に』森田千宏

【花まるコラム】『好きを味方に』森田千宏

 日が暮れるのもすっかり早くなったこの頃。書店の目立つ場所には来年のスケジュール帳コーナーができていて、思わず立ち寄りました。形式、大きさ、分厚さ、デザイン…数あるなかからマイベストを探し出すのが毎年の楽しみだったりします。最近は予定を書き込むだけの用途に留まらず、自己実現をテーマにした手帳などもあり、バラエティ豊かです。「朝活」に特化した手帳を見てみると、タイムスケジュールの欄が4:00~9:00までしかありません。1ページ目には「まずは自分の『好き』を100個書き出そう」という欄がありました。好きなものごとから自分の軸が見つかること、それが目標達成のための支えや原動力となることもあるから、好きなことを整理・把握しておこうものでした。そういえば自分の好きなものごとが何かの突破口になることってあるよなぁ、と共感でき、その日帰宅した後もしばらく印象に残っていました。
 意図しなくても自分の「好き」が武器となり、可能性を広げていく様子を授業で見ることがあります。今月の小学生クラスでは「国語大会」がありました。大会は、教科に関する問題にゲーム形式で取り組むことでその教科に親しめるよう、定期的におこなっている特別授業です。
 開始早々に1年生のTくんが浮かない顔をして不安をもらしました。「あぁ、ぼくは算数大会のほうがよかった。国語はあんまりできないから。算数やったら強いのに…」と。大会は活躍具合などに応じてMVPが決まったり、花まるのオリジナル鉛筆がもらえたりするので、子どもたちはいつも真剣です。Tくんの発言は、できるだけ多くの問題に正解したい、がんばりたい気持ちがあるからこそ出たものだと受け取りました。

 そんな自称「国語より算数」のTくんに転機がやってきました。大会終盤におこなった「ことばのかいだん」というゲームでのこと。ルールは指定された字数の言葉を自分一人で考え、より多くの言葉を見つけるというもの。自分の知っている言葉を引き出すこと、ほかの子どもたちの発表を聞いて語彙力を上げることを目的としたゲームで、今回のゲームのなかでもダントツの人気でした。第1回戦のテーマは「し」のつく言葉。子どもたちは2~4文字まではなんとか思いつくけれど、字数が増えるごとに手が止まる時間も長くなります。1年生は4文字の言葉を思いついただけでもたいしたものです。シンキングタイム中に見回りをしていると、Tくんの手が勢いよく動いていました。こっそり様子を見てみると、びっくり。なんと8文字目を埋めています。「しょうじょうばえ」…そう、Tくんは生き物が大好きで、特に、虫や魚に詳しかったのです。「しーらかんす」「しらす」「ししゃも」…と、目を輝かせながら書き出していました。第2回戦のテーマは「たべものの名前」。ここでも魚にまつわる名前をたくさん思いつきマスを埋めていきます(「しめさば」の渋いチョイスには思わず笑ってしまいました)。
 クラスの子の学びになるような語彙を発表できたこと、1年生ながらたくさん言葉を書き出せたことで、Tくんはこのゲームのベストパフォーマー賞に選ばれました。「楽しかった~!国語大会また来週もやりたいなー!」と笑顔で帰っていくTくん。今後、国語に対する気持ちはより前向きなものになっていくことでしょう。
 自分の好きなものごとが思いがけないところで支えや突破口となる。勉強はその最たる例だと思います。その子の好きなこと、興味のあることに寄り添い学びにつなげられるような授業にできるよう、今後も一人ひとりをよく見ていきます。

花まる学習会  森田千宏(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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