【花まるコラム】『お別れに花束を』岡裕介

【花まるコラム】『お別れに花束を』岡裕介

 中学受験を目指してスクールFCに移動する3年生Eさんと最後の別れ。花まる学習会に通ってきた日々の幕引きを今日、おこなうのです。Eさんは1つの問題に複数の答えの出し方を見つけるなど、探求心のある生徒です。今日は、授業中ずっと言葉があふれ出ていて、少し授業内容から逸れた話もするほど、元気にふるまっていました。

 最終授業ということで、授業後に1対1で別れの挨拶をさせてもらいます。すると、急に静かになるEさん。「最後の花まるだから、なぞぺー(思考力教材)やスペシャル問題を全部やる!」と意気込んでいたEさんはどこへ行ったのかと不思議になるほど静かでした。私から、Eさんの素敵なところを改めて言葉にして伝えます。無限の可能性をもっている、何にでも挑戦し続けられる姿勢が素晴らしい…等々、言葉にしながらEさんとの日々を思い出し、胸が熱くなりました。担当の講師もEさんに対し、多くの言葉をおくっています。それでも、Eさんは変わらず無言。しかし目には涙が溜まっているのがわかりました。Eさんは涙を我慢している様子です。泣くなんてかっこ悪いと思っている年頃だからこそ、言葉を出せない。話し好きなEさんが言葉を出さない姿を見ていて、涙に気づくお母さま。
「あれ?泣いているの?」
すると、Eさんは大きく首を横に振り続け、「うるさい!」と言わんばかりのリアクション。思春期に早めに入っている子の反応です。

 そして、思いにふけるように無言の時間が流れました。Eさんのうしろにはお母さまとお父さまがいらっしゃったのですが、講師もふくめ、誰一人、焦って言葉をかけることなどしません。しばらくしてEさんが、
「本当にありがとうございました」
と口にします。少し震えた声で、でもそれを悟られないようにしっかりとした声でした。「受験をする!」と自分で決断したEさんには、意欲や野望があり、挑戦しようとする姿勢が素晴らしいと思います。私はその意思を聞いたとき、応援する気持ちでいっぱいになりました。最後には、「また受験の結果が出たら、連絡するね!」「高校生になったら、野外リーダーになって無人島にいく!」と決意表明までしてくれたのです。 

 こうしてEさんとの「別れ」の時間を大切にすることができました。「別れ」を大切にできる人には、素敵な「出会い」もたくさんあるだろうと感じています。私もいつもうまく別れられている自信はなく、改めて別れを大切にしようという思いがこみ上げてきました。

 出会いがあれば、別れもある。ともに過ごした時間を再び心に刻むような別れをこれからもし続けていきたいと思います。

花まる学習会 岡裕介(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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