【花まるコラム】『花漢、それから』風間翔平

【花まるコラム】『花漢、それから』風間翔平

 花まる学習会では、年に3回、子どもたちの習熟度を測るテスト:HIT(Hanamaru Intelligence Test)があります。6月に実施されたHITでは、こんなことがありました。1年生のHくんはなんでも得意な男の子。そして初めて受けるHITも、初めてとは思えないほどのできばえでした。さらに自信があったのは花まる漢字テスト(通称:花漢)。本番前にはHくんも、2・3年生の子どもたちと同じように、漢字ポケット辞典を開き、裏紙に練習をしました。
 また、Hくんのお姉ちゃんが毎日漢字の練習をしているおかげもあって、それを真似して彼も家で練習してきていたのです。お姉ちゃんのように、漢字が書けるようになりたいと思ったのかもしれません。私は、彼なら練習の成果を発揮し、HITと同様に良い結果を出すと思っていました。おそらくHくん自身もそう思っていたはずです。

 しかし実際は違いました。実は、1年生の花漢は漢字があまり出ず、ひらがな、カタカナの書き取りが半分以上を占めています。彼の手が止まった様子が、私の視界に入りました。そして
「うーん、うーん」
「こんな問題知らない」
と声を出すようになりました。おそらく漢字をたくさん練習し、ひらがなやカタカナが出てこなくなっているのでしょう。私も、
「ひらがなをカタカナに直してごらん」
と声をかけ、様子を見ましたが、それでもまったく手が動きません。次第に声も出なくなり、手を紙の上でグーパーするのを繰り返し、まるで花漢を引っ掻いているようでした。ついにはポロポロと泣き出してしまいました。できる自分にとって、できないなんてあり得ない。零れた涙の跡を残すまいと、Hくんが指で擦ると、花漢にぽっかりと穴が開きました。それを見てさらに落ちる涙。結局、カタカナは一切書けず、穴だらけの解答欄になってしまいました。そして、彼は合格を逃しました。

 授業後のお母さんとの電話でも、頑張って練習してきたのは十分に伝わってきました。漢字に集中して、ひらがな、カタカナを忘れてしまっていました、とのことです。花まるが嫌いにならないかと心配している旨を伝えましたが、お母さんから「それはないですよ」と一言。続けて、「授業は楽しいと言うし、いつも笑顔で帰ってきています。今日だけは違いましたが…。 カタカナがわからなかったと言って泣いていましたが、いまはもうカタカナを調べています。いつも自信満々なので、今回早めの挫折を味わって、Hがもう一度頑張ってくれることを信じています。わざわざお電話ありがとうございました」と。お母さんはHくんを信じていました。安心してもらうために電話をしたのに、私が逆に安心するという結果になりました。

 そして、10月のHIT。彼は練習を繰り返し、漢字、ひらがな、カタカナに自信を持てるようになっていました。当日もじっくり練習。花漢の時間が待ち遠しい。始まると、スラスラと書き進め、前回の花漢とはまるで異なり、一問解くごとに彼はさらに元気になっていくようでした。

 そして、待ちに待った花漢返却の日、彼は見事に特待合格。6月からずっと心の中にあったわだかまりがすっと晴れたように、Hくんはぴょんぴょんとその場で飛び跳ね、喜んでいました。ひらがなが書けない、カタカナが書けない、「できない」ということをそのままにすることなく、「できた」というバネに、見事に変えることができました。

 私は「挫折感=嫌い」となってしまうのではと思っていました。しかし、彼の中で6月のHITは「挫折感→悔しさ→バネ」とつながったのです。

 この経験から得た強みをもって、彼はまた元気に花まるで活躍しています。誰もが経験する挫折感。これをいかにバネに変えられるかは自分次第。日々の教室という子どもたちの活躍の場で、「納得できない」「次こそは!」と思える場面はたくさんあります。

 これからも一人ひとりの伸ばせる場所を探し、個々のバネを作っていきます。

スクールFC/花まる学習会 風間翔平(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員のみなさまにお渡ししています。

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