【花まるコラム】『思い出の授業』松浦加奈

【花まるコラム】『思い出の授業』松浦加奈

 今回は、私の忘れられない授業についてお話しします。小学生の頃を思い出すと、決まって頭に浮かんでくるのは、『スイミー』(レオ=レオニ作/谷川俊太郎訳)というお話。これを扱った国語の授業が忘れられません。

 主人公のスイミーは、仲間を大きなマグロに食べられてしまいますが、泳ぐスピードが速かったスイミーは、必死で逃げて助かります。一人で暗い海を心細い気持ちで泳いでいると、きれいな景色と、自分と同じ魚の仲間に出会います。しかし、みんな大きな魚に食べられるのが怖い。そこでスイミーが、みんなで大きな魚に化ければ怖くないと提案し、見事大きな魚を撃退するというお話です。

 忘れられない授業風景は、担任の先生が、スイミーの仲間が恐ろしいマグロに食べられてしまう瞬間のマグロのまねをしたときです。大柄で声がよく通る男の先生が、自分の腕を伸ばし、さらに長細い磁石を持ってマグロの大きな口を表現したのです。その光景はまさに、大きな担任の先生はマグロ、小学2年生の小さな私たちは、スイミーたち。あまりの迫力に圧倒されました。物語が現実となって目の前に現れたかのように感じたのです。

 私は、この授業があったからこそ、国語に対して抵抗感がなくなったと思っています。それは、物語を読むときは頭のなかでイメージして読めばいいということを、体感型の授業で自然と教えていただいたからです。黒板に「文章を読むときは頭のなかでイメージしながら読むこと」と書かれていただけでは、「そうしなければいけない」という思考にとらわれて、楽しく文章を読むことができなかったでしょう。
 『スイミー』は普通に読み進めておもしろいお話ですが、このような経験によって、一生忘れられない物語の一つになりました。大人になったいまでも、ふと思い出します。

 このような体験を花まるの授業でも味わえるように心がけています。低学年コースでは「さくら」という精読教材があります。これは、物語を聞いたあと、そのお話のクイズに答えていくものです。クイズがある、と聞くと子どもたちはそれだけでわくわくして、真剣な表情でテキストの文章を目で追っていきます。以前扱った宮沢賢治の『雪渡り』では、文中に登場するきつねが「キックキックトントン」と足踏みをする様子が書かれていました。私は子どもたちがイメージしやすいように、リズムよく読んでいました。すると一人の男の子が、椅子に座りながら私の声に合わせて足踏みを始めたのです。この子の頭のなかではきつねが足踏みをしている情景が浮かんでいて、一緒に楽しんでいるようでした。

 子どもが何かに興味をもつとき、それは、心が震える瞬間だと思います。起きているとき、子どもたちは常に感性のアンテナを張りめぐらせています。学習に心動く瞬間があることで「学ぶって楽しい、好き」という気持ちにつながっていくのではないでしょうか。

 新学期に向けて、子どもたちがよりわくわくして楽しく、学びが得られるように、授業・声かけをしてまいります。次の学年に向けて不安なことなどございましたら、お気軽にご連絡ください。

花まる学習会 松浦加奈(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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