【花まるコラム】『子の涙に始まり、親の涙で終わる』水口玲

【花まるコラム】『子の涙に始まり、親の涙で終わる』水口玲

 「いやだー、行きたくない!」
 バスの前でお母さんに抱きつき泣き叫ぶBくん。小学3年生ですが、まわりより体が大きいBくんは意地でもお母さんから離れないという気持ちでしがみついていました。彼がサマースクールに参加するのは、今回で2回目。前回も似たような状況だったので、お母さんからは「無理やりでもバスに乗せてください」と言われていました。

 「みんな待っているから、座席にいったん座って、考えてからもしいやだったら戻ろうか」
と言って、少し強引にバスに乗せました。
「座ったからいいよね、もう降りていいよね?」
と聞いてくるBくんに、
「サマースクールではどんなことが楽しみ? 今回で何回目?」
などと気を紛らわせるためにいろいろな質問をしました。そうこうしているうちにバスは発車。
「降ろして! 帰る!」
少しの間だけさわいでいたBくんですが、しばらくすると逆にワクワクしてきたようで、バスレクでは
「おれ、サマー2回目だから名前覚えゲームは最後でいいよ!」
など班の仲間を引っ張るほどに楽しんでいました。ちなみに「名前覚えゲーム」とは、バスの中で子どもたち同士名前を覚え、仲良くなるためのゲームの一つで、「○○くんのとなりの○○です」のようにどんどん名前をつなげていき、最後の一人が言い終えるまでのタイムを競うゲームです。順番が最後に近づけば近づくほど覚える人数が多くなり難しくなります。そのため、最後になるのはいやがる子が多いのですが、自分から難しいことに挑戦しようとするほどの積極性を見せていました。

 宿についてからも、
「おれたち、仲間だよな!」
とチームを引っ張り、楽しそうにしていました。食事のときには
「あと何回ごはんを食べたらおうちに帰れる?」
など、時折寂しそうな言葉は出てきますが、涙を見せることはありませんでした。

 Aくんが今回参加した「RIVER探検隊」のコースでは、沢登りをおこないました。大人の身長ほどある壁を登るため、ほかの子は2〜3人のリーダーの手を借りて、壁を乗り越えていました。いよいよBくんの番。
「おれは手を借りずに行くよ!」
と言って、壁を駆け上がっていきました。ダッダッと勢いよく壁を走るBくん。あと少しというところで手をついてしまい、惜しくも自分一人で上がることはできませんでした。しかし、高い壁を自分で乗り越えようと挑戦する姿勢は、行きのバスの前で見せた姿とは大違いでとてもかっこいいものでした。

 あんなに早く帰りたいと言っていたBくん。最終日には
「なんかあっという間だったな。早くお母さんに会いたい気持ちもあるけれど、もっとサマースクールやりたいし、まだまだここにいたいな」
と口に出していました。解散場所に迎えに来たお母さんは、自信満々で帰ってきたわが子を見て思わず涙をこぼしていました。

 「うちの子、私と離れても大丈夫かな」と親として不安に感じている方もいるかもしれません。お子さま自身も最初は不安に感じるかもしれません。しかし、サマースクールに来ていただければ、仲間との出会いやさまざまな経験を通して子どもたちは必ず成長していきます。今年度のサマースクールももう少しで始まります。今年もさまざまな出会いや子どもたちの成長を見られることを楽しみにしています。

花まる学習会 水口玲(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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