【花まるコラム】『電柱の隙間から』元吉遥子

【花まるコラム】『電柱の隙間から』元吉遥子

 まだまだ寒さが続きますが、陽が差しているときは暖かく、外に出たくなる季節が近づいてきましたね。先日、東京でも雪が降り、雪に興奮している下校途中の小学生の賑やかな声が聞こえてきました。
 私の地元、山梨県でも、冬になると毎年のように雪が降り、小学生の頃は休み時間にクラスのみんなで雪合戦をしました。次の授業が始まる頃には汗びっしょり、手袋も濡れてぐっしょりで、授業どころではなかったのを覚えています。雪が降ることに興奮していた子ども時代でしたが、いつの間にか「できれば、あまり積もってほしくないなぁ」と寒さや次の日の交通事情を考えるようになりました。今回はそこまで積もりませんでしたが、雪に興奮している子どもたちの声を聞き、前向きにその日を楽しむ気持ちや感動していたことを思い出させてもらいました。

 数か月前、低学年の授業後にドアを開けると夕焼けが見えました。何層もの色が重なり、燃えているような、鮮やかな、「きれい」という言葉だけでは表現しきれない景色でした。空には雲一つなく、ちょうど電柱と電柱の間から見え、ここまで綺麗に見える日は数少ないだろうと思い子どもたちに声をかけようと振り返ると、授業の準備や問題を解くのに集中している子どもたちは誰一人気づいていません。見てほしい、でも集中しているし…と葛藤しているうちに、夕焼けは薄くなっていきます。どうしようかと迷っていると、一人の男の子が「先生、なにしているの?」と声をかけてきました。これはチャンス!と思い、「空が夕日に染まっているから見惚れていたんだよ」と伝えると、「どれどれ…」とぞろぞろほかの子もドアに近づいてきました。少人数クラスではあったものの、気づけばドアのまわりは大渋滞。それでも隙間から見える夕焼けに、子どもたちは大興奮。
「おっきい~!すごいー!」「絵の具で塗ったみたい!」「いくつあるかな…」「オレンジと黄色と…」
 思い思いに声を出しながら、夕焼けを子どもたちと眺めていました。夕焼けを目に焼きつける子やなぜ色が違うのか不思議に感じている子、「今度、ふたご座流星群が見えるよ」と教えてくれた子。子どもたちと同じものを見て、感動できた時間がとても幸せでした。
 授業が終わると、一人の子が目を輝かせて一目散にドアのほうへ行き、「あ~、見えなくなっちゃったなぁ…」と空を見上げていました。すると近くにいた別の子が、肩をポンっと軽くたたいて「また見られるよ」と優しく声をかけてあげていました。「またここで、みんなで見られるかな」と別の子もボソッと言いました。
 誰かと一緒に見た夕焼けは、その感動を分かちあうことができます。一人で見るより感動が増します。「みんなで見た」ということが、子どもたちにとって価値のあることだと感じました。子どもたちから「みんなで」という言葉が出て、私自身も見た時間を幸せに感じました。

 最近の教室では、年長コースの子が硬筆大会本番に向けて練習したものや、低・高学年の子が花まる漢字テストに向けて一生懸命練習したノートを見せてもらいました。提出した子どもたちからは、「見て!頑張ったんだよ!」という気持ちが強く伝わってきます。返却する際には、全員の前で大きく表彰します。すると、「あたしも来週出す!」「ぼくも!」と多くの声が聞こえ、「見てほしい!」「頑張ったんだ!」という気持ちを強く感じます。頑張ったことをみんなで認め合う。これこそ、集団でおこなう良さだと感じます。これからもいつまでも純粋に、子どもたち一人ひとりが感動したことを、みんなで一緒に感じられるよう分かちあっていきます。 

花まる学習会 元吉遥子(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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