【花まるコラム】『自分を受け入れてくれる人』濱口実莉

【花まるコラム】『自分を受け入れてくれる人』濱口実莉

 5年生のAくん。初めて出会ったのは彼が2年生のときでした。当時、彼はこの世のすべてを否定するような目でものごとを見ていました。「みんなと仲良くしたい!」という強い気持ちはあるものの、素直に言葉で伝えることができなくて、手を出し、暴言を吐くことで友達を振り向かせようとしていました。そのため、友達からは「いやなやつ」と思われてしまうことが多くありました。教室ではAくんが考えていることを私なりに汲み取って言葉にすることに努めて、少しずつまわりに理解してもらうことができ、受け入れてもらえるようになっていました。

 そんなAくんは、今年度より進級先の関係で別の教室に移動していました。久しぶりに会ったのは、約半年前の秋、私が事務所で仕事をしているときでした。
「僕ね、学校で生徒会の副委員長になったんだ!」
私はこの報告に驚きを隠せませんでした。以前は友達に受け入れてもらえず、「学校は地獄だ」などと言っていたので、Aくんから学校の話を、それも良い報告を聞くことができる日が来るとは思いもしなかったからです。
 Aくんは生き生きとした表情で話を続けました。
「本当は委員長になりたかったんだけれど、委員長は6年生しかなれないって決まりだったから、副委員長に立候補したの!」
「僕ともう1人立候補した子が全校生徒の前で話をして、選挙で決まったんだよ」
「あんまり仲良くない友達に『誰に入れたの?』って聞いてみたら、僕に入れたって言ってくれたんだ!」
学校の話を楽しそうにするAくんの姿に、嬉しさのあまり仕事中だということを忘れ、手を止めて話に聞き入っていました。
 その日の夜、現在Aくんを担当している講師にもこの話を共有すると、選挙という決め方にもAくんの努力があったことを知りました。副委員長の立候補者は2人。「2人だし、じゃんけんで決めたら?」という先生からの提案に、「選挙で決めさせてほしい!」と自ら提案し、『図書館を全校生徒が利用しやすい場所にする取り組み』について演説したそうです。

 私が担当していない間の成長は、Aくんからの報告や担当講師から聞くことでしかわかりません。しかし、少なくとも直接かかわっていた昨年度は「一緒に遊ぼう!」と言葉で言えるようになったり、困っている下級生に優しく手を差し伸べたりと、Aくんの行動や言動は少しずつ変わっていました。教室では、変化したAくんをまわりも受け入れ始め、4年生の終盤を迎えた頃には、友達と笑顔で接している時間が増えていました。教室でできるようになったことを活かし、学校でも頑張ったんだろうな、とひしひしと感じた1日でした。

 先日、Aくんのお母さまにも久しぶりにお会いすることができ、Aくんから聞いた生徒会の話をしていると、ご家庭でも変化があったようです。
「いままではあまり学校に行きたがらなかったし、学校が終わっても家でテレビを見たりゲームをしたりしていたのが、最近は帰宅するとすぐに家を飛び出してお友達と外で遊ぶようになったんです。習い事の時間を忘れて遊んでしまうからそれはそれで大変なんですけどね(笑)。でも、家でゲームばかりするよりはよっぽどいいと思っていますし、学校も最近楽しそうでよかったなと思っているんです」
習い事の時間を忘れるくらい夢中になって遊べる友達ができたことも、私は嬉しく感じたことの一つでした。

 自ら提案した選挙という決め方で、自分の演説を聞いた友達から票が集まり副委員長になれたという事実だけでもみんなから受け入れてもらえたと実感できたと思います。それに加えて、よくケンカをする友達からも、もしかしたらいままでは「敵だ」と思っていた友達からも票を得られたことも、Aくんにとって大きな自信につながったのでしょう。
「いまはコロナで委員会活動ができないんだよ。やりたいことがいっぱいあるのに…」
「来年は委員長になれたらいいなぁ~」
と、責任感とやる気に満ち溢れていました。

 Aくんの話を聞き、どれだけ失敗しても修復できるのが小学生の仲間なのだと感じました。この時期だからこそ失敗を恐れず、自分のやりたいことに挑戦してほしいなと思います。

花まる学習会 濱口実莉(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

花まるコラムカテゴリの最新記事