昨年11月、小学生クラスでは「作文コンテスト」をおこないました。毎週の授業でも取り組んでいる作文を、 授業の時間を存分に使って書く特別授業です。作文を書く際、子どもたちには自分の気持ちに素直になることを伝えています。見たもの、感じたことをありのままに言葉で表現することが、自己理解へとつながります。
経験した出来事や自分の気持ちを書き残すことには、ほかにもたくさんの意味があるように感じます。
授業で作文を書くことに集中していた5年生Yくん。時々遠くを見つめては、何やら考えごとをして、また勢いよく鉛筆を走らせました。私はYくんのそばに行って、作文を読んでみました。題名は「県央大会」。習い事の柔道で、県央大会に出場したときのことが書かれていました。私が一言、「県央大会まで勝ち進んだの!?すごい!」とYくんに伝えると、「うん!」ととても嬉しそうに、満足げに答えました。
Yくんは、作文を完成させてからも、何度も読み直しては、遠くを見つめていました。その姿は、まるで作文を通して大会の日のことを思い出しているように見えました。回想を終えてか、納得のいく作文を書き上げたYくんの表情は、すっきりとしていました。大会で得たことを言葉にして表現することで、自分を俯瞰したのです。経験したことを、自分のものにすることができたYくん。この経験は、Yくんの自信や成長につながっていくことでしょう。
また、3年生のKくんは、作文を書く際に「この前、鉄道博物館に行ったんだけど、そのことを書きたいな。いつ行ったっけ…」とつぶやき、かばんからおもむろに小さな日記帳を取り出しました。毎日日記を書いているのだそうです。日記帳を見せてもらいました。その日に行った場所や出来事を書き、感想も短く記してありました。Kくんは、鉄道博物館のページを開き、「あった!そうそう、この日だ。行くまでにもいろんなことがあってね…」と日記に書いてあることに触発され、さまざまなことを思い出していました。そして、それを作文に丁寧に書いていきました。
Kくんにとって日記は、過去にもう一度立ち返るきっかけになっていたのです。日々の出来事を大切に日記に収め、読み返すことで、そのとき感じた想いに改めて触れられるのだと、Kくんの行動を見て感じました。
私自身、気持ちが動いたときに日記を書き、出来事とそのときの自分の気持ちを残しています。日記を書いている時間は自分を知ることができるため、本当に楽しいのです。これは小学生のときから続けていて、いまではたくさんの日記ノートが溜まっています。
私はその日記を時々読み返します。対人関係で悩んだとき、自分らしさを見失ったとき、生き方に迷ったとき、日常に変化がほしいとき、解決の糸口を見つけに日記を手に取ります。
ページを開くと、過去の自分が、そのままそこに存在しています。「あのときは、こんなことで真剣に頭を抱えていたのだなぁ」と、忘れていた感情を客観的に見つめられます。そして、いまの自分がそのときに比べて大きく前進していること、視野が広がっていること、過去と違う角度から物事を見つめていることに気づかされます。
出来事や気持ちを言葉に表して残すことで、過去の経験を客観的に捉えられます。そこから、自分の成長を感じたり、次のステップを歩んだり、未来への希望を得たりすることにつながります。
花まるで書いた作文をいつか読み返したときに、子どもたちはどんな気持ちになるのでしょうか。今後も、授業で取り組む作文を通して「言葉に残す」ことの大切さを伝えてまいります。
花まる学習会 水谷真奈(2022年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。