【花まるコラム】『自分軸で』出井真理

【花まるコラム】『自分軸で』出井真理

「なんかだんだん大人になってきた!」

 ある教室で体験授業をおこなったときに、年長の男の子が放った一言。彼はこちらから伝えることすべてに新鮮な反応を示し、終始イキイキとした様子でした。後日、保護者の方から聞いた話ですが、それまで新しいことに対してはそれほど積極的なほうではなく、どこへ行くのかを告げずに教室に連れてきたため、どんな反応をするのかとても心配していたのだそうです。
 確かにはじめは緊張した面持ちでしたが、いざ授業が始まると一変。一つひとつを認めながらぐんぐん引き上げていく花まるの授業で、自信が湧いてきたのかもしれません。たった1回の授業のなかでも自分が成長している実感がもてたときに、「大人になってきた」という言葉で表現したくなったのでしょう。
 私がとりわけ素晴らしいことだなと思ったのは、その子がまわりと比べてどうかではなく、自分軸で成長を感じられたということでした。

 私も「前の自分と比べてどう成長しているか」という自分軸で考えながらこれまでの日々を過ごすことができていたら、ものごとのとらえ方も大きく違っていただろうなと思うことが時々あります。
 幼い頃は何事も自分を基準にして考えていたはずなのですが、まわりを意識し始める年頃になるとそれが少しずつ変わって、「あの子はこうだけど私はこうだな」と自分ではない誰かを基準にして考える癖がついていきました。きっと多くの人に、まわりと自分を比べてしまう時期があることでしょう。そういう時期に差しかかったとき、「人と比べる必要はない」「前の自分と比べてどうかが大事」という考えに軌道修正することができていたら、あの男の子のように自分の成長を素直に認められたかもしれません。

 私は中学生の頃、英語が大好きでした。当時英語を習っていた私は、さほど準備をしなくてもテストで高得点を取ることができ、学年でも常に上位の成績で自信をもっていました。しかし、高校生になるとそれが一気に崩れてしまいました。進学校に進んだ私を待っていたのは自分よりもはるかに実力のある仲間たちで、それまで学年上位を取れていた私はがんばっても中間層に。そのときのショックは大きく、一気に自信を失ってしまいました。しかしいま考えてみれば、順位という数字が下がっただけで、自分の英語の知識が減ったわけではありません。確実に知識は増えていたはずなのです。それなのに、まわりと比べてどうかという点ばかりに気を取られて、いつしか英語が嫌いになってしまいました。「みんなよりできる英語」が好きだっただけで、「みんなよりできない英語」は受け入れられず、かつての自信は本物ではなかったことに気がつきました。もしこの時順位を気にせず「前よりも覚えた英単語が増えたな」「前よりもスラスラ言葉が出てくるようになってきたな」と自分軸で捉えることができていたら、そのあとが何か変わっていたかもしれません。長くしみついた考え方はなかなか抜けないもので、いまでもうっかりまわりを意識しすぎてしまうことがあります。自分軸で考えれば確実に成長を重ねているはずなのに、それを自分自身で認めてあげられないのは何とも悲しいことです。

 子どもたちには、私のような失敗をしてほしくないと思っています。だからこそ
「前と比べてどうだった?」
「前よりもここがこうなったよね」
と意識的に言葉で伝えるようにしています。どうか子どもたちが自分軸でものごとを考え、成長を自分で実感し、本物の自信をつけて成長していってくれたらと強く願いながら、今日も授業に向かいます。

花まる学習会 出井真理(2023年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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