【花まるコラム】『ふわっとしたものをぎゅっ』森田風斗

【花まるコラム】『ふわっとしたものをぎゅっ』森田風斗

 高学年コースの目的の一つに「学習法の確立」があります。ノートをわかりやすくまとめたり、間違えた問題を徹底的に解きなおしたりするなど、勉強に限らず、この先ずっと必要となる力を日々の授業で育んでいます。
 そのなかでも特に大切なのは、スケジュール法です。1週間のスケジュールを立てて、学校や花まるの宿題などを実行する。大人でも容易ではないスケジュール管理にじっくり向き合う機会を設けるべく、夏休みに高学年の子どもたちを対象に、スケジュール法に特化した「夏の学習サポート講座」を開催しました。

 内容は、月曜日に1週間分のスケジュールを立て、次の月曜日に振り返りを行い、また1週間分のスケジュールを立てるという、PDCAサイクルを意識したもの。スケジュール管理は誰もがすぐにできるようになることではないので不安もありましたが、始まってみると杞憂に終わりました。
 というのも、振り返りで子どもたちから出てくる言葉が素晴らしいこと。「9時から勉強しようとしたけれど、余裕があったのでもう少し早く始められそう!」と話す4年生のJくん。「学童では友達と遊んじゃうから、勉強は家でやる!」と話す4年生のIくん。次の行動は考えられなかったとしても、「五輪の閉会式をダラダラ見てしまった」「30分と決めたゲームをやり過ぎた」などと振り返りができている子もいました。

 本講座で再認識したのは、自己対話の大切さです。スケジュール法はある程度の決まった型はあっても、正解はありません。朝型/夜型、時間で区切る/やることで区切る、などでタイプは分かれます。正解がないからこそ、やってみて、どうだったかを自分に毎回問いかけて考えるしかない。他の人の方法はあくまでも参考例。実行する自分に合ったものが一番であり、それは自分でしか見つけられないものです。

 自己対話は一見、簡単に思えるかもしれません。しかし、自分という一番身近な存在だからこそ、ごまかさずに向き合い続けるには、積み重ねることが大切です。

 自己対話が重要なのは、スケジュール法に限った話ではありません。正解がないといわれて久しいこの時代。自分の幸せは自分で見つけるしかない時代。何をしたいのか、誰と一緒にいたいのか、何が好きなのか。逆にやりたくないこと、嫌いなことは何か。それらすべてが自分の幸せを見つけるカギとなります。そのカギは誰かが与えてくれるわけではなく、自分の中にあり、自分と対話することで見えてきます。

 自分という人間を形成するのは日々見て、聞いて、触って、その感じたものすべてです。しかし、感じたことは抽象的で、フワフワしていて、意識しないとすぐに消えてしまう。普段は目に見えない水蒸気のようなものです。あまりに身近で、ありふれていて、つい見過ごしてしまうため、「あなたがやりたいことは?」「好きなことは?」といった質問に答えられる人はそう多くはないでしょう。私自身も未熟で即答できないことがあります。一番身近だけれど、一番わかりづらい存在、それが自分なのではないでしょうか。

 だからこそ、意識して立ち止まり、言葉にしないといけないのです。ふわっと目の前から消える前に、感じたことをぎゅっと凝縮して、形にする。それを繰り返すことで、見えづらかった自分が見えてきます。

 高学年コースに限らず、花まる学習会では、自己対話の力を育む教材があります。作文も、その一つです。文章力を育むことはもちろんですが、感じたことを、言葉にする経験を積んでいきます。
 最初は「書くことがない」と悩んでいた子も、「今日は学校で何をしたの?」「夏休みはどこかに出かけた?」などと質問すると、すぐに「体育!」「家族と旅行に行った!」などと返ってきます。即答できるのは、本人が強い何かを感じた証拠でしょう。思い出だけではふわっと消えてしまうものも、言葉にすると、心に強く残ります。それを積み重ねていくことで、いつか自分の幸せを探すときに、大きなヒントとなるでしょう。自分の幸せを自分で見つけられるように、私自身も自己対話しながら、子どもたちの自己対話の機会を設けてまいります。

花まる学習会 森田風斗(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

花まるコラムカテゴリの最新記事