【花まるコラム】『30年後のクリスマスプレゼント~キミが笑ってくれるなら』樋口雅人

【花まるコラム】『30年後のクリスマスプレゼント~キミが笑ってくれるなら』樋口雅人

 今年も街にクリスマスソングが流れる季節となりました。そこはかとなく幸せが漂ってくるかのようなこの空気感。それは資本主義社会における商業戦略が生み出した世界規模の共同幻想に過ぎないと言われれば、確かにそれも一面の真理ですが…そんなこと、誰もがわかっています。わかっていながら「よし、一緒に乗っかってやるか!」とばかりに世のなかが一斉に「右ならえ」するようなもの。第一次世界大戦中、敵国軍兵士たちの間に自然発生した「クリスマス休戦」の話を持ち出すまでもなく、この日ばかりは人々が国境や人種に関係なく「幸せ」という名の観念のもと、見えない糸でつながれるかのような一体感を覚える…そんな幻想をリアルに抱くことができる、「特別な一日」であるわけです。
 ある日の年長クラス開始前のひとコマ。「今年はサンタさんに〇〇を頼むんだ!」「私はもう◎◎をお願いしたよ!」「でもホントにサンタさん来るかなぁ?」…そんななか発せられた、Mちゃんの質問――ねぇ、大人になるとプレゼントをもらえなくなるの?―― そう問われたときの私の答えは決まっています。「そうだね、大人になったらクリスマスに『モノ』を運んできてもらうことはなくなるかな。でもね、その代わり大人には『もうモノなんていらないや』ってくらいに嬉しいプレゼントを届けてくれるようになるんだよ、サンタさんは」「え~どういうこと?」目を丸くして聞いてきたMちゃんに、こう伝えました。「そうだなあ、Mが大人になって…お母さんになる頃には、きっとわかると思うよ」。

 一般論として「嘘をつくのはいけないこと」…確かにその通り。しかしながら「人を幸せにする嘘」があるのもまた事実。「サンタがプレゼントを運んでくる」という伝説など、その最たるものでしょう。子どもたちにもいつかはそれが作り話であったとわかる日が来るのですが、人は不思議とその件について「騙された~」というマイナスイメージを抱くことなく、自身が親になるとまた同じようにわが子にその伝説をまことしやかに伝えるなかで歴史は紡がれてきたのです。それはきっと誰の心のなかにも「いい夢を見させてもらったな~」という、プラスの感情があるからでしょう。そして親として何が嬉しいって…クリスマスが近づくにつれ期待が高まるわが子のウキウキした様子。イブの夜に夢を紡ぐ安らかな寝顔。そして翌朝、目を輝かせながら枕元の包みを紐解き、プレゼントを手にしたときの歓喜の表情…もうこれが見たい一心で何日も前から期待を煽り、秘かに取り寄せたプレゼントを押入れに隠し、翌朝大喜びするわが子の笑顔にはち切れそうな期待を抱きつつ、深夜こっそり仕込みにかかる…思わず笑みが零れそうになるこのワクワク感――私自身も「親」となって改めて知るところとなりました。クリスマスってこんなにも、こんなにも幸せなイベントだったんだな、ということを――

 Mちゃん。キミが将来ママとなって、わが子の枕元にそっとプレゼントを置くとき…先生が伝えた言葉の、本当の意味がわかると思うよ。そして静かに一年を振り返ることになるんじゃないかな。言うこと聞いてくれなくて大変だったことはたくさんあっただろうけれど、でもとにかく毎日元気に過ごしてこられたこと。おいしそうにごはんを食べてくれたこと。そしていま…寝顔をこうして眺めていられること―― 何でもないようなことの、その当たり前にあることのありがたさ、幸せ…ぜひじっくりと噛み締めてほしいな。そして同じように小さかったキミの寝顔を眺めながら…ただそれだけのことで、涙が出るほどの幸せを感じていた――パパママの注いでくれた愛情に、想いを馳せてもらえたら。ね。

 みんなみんな一年間、元気に過ごしてくれてありがとう。キミたちがただ元気でいてくれるだけで、幸せを感じている人がこんなにもいるんだってこと…いつの日か、わかってくれるときが来るといいな。

 来年もどうかキミたちが、元気に過ごせますように。そしてキミたちを取り巻く多くの人々にも…今年と変わらぬたくさんの幸せを感じてもらえる一年でありますように。

花まる学習会 樋口雅人(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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