【花まるコラム】『失敗は成功のもと』小松原学

【花まるコラム】『失敗は成功のもと』小松原学

 2年生のAくんは、算数プリント(文章題)の問題を、筆算を書かずに計算しています。どうやら、暗算で解かないと気が済まないようです。仮に間違ったとしても、正解するまでとことん暗算で解き続けます。
「筆算をすると、もっと簡単に答えがわかっちゃうよ」
と話しかけても、
「それじゃ意味ないから」
と頑なに拒むAくん。Aくんにとっては、暗算で解くことが美学なのです。
 キューブキューブ(立体教具)の箱しまい競争でも、自分の世界に入り込んでしまいます。きちんと片付けることが彼にとってのゴール。いまを生きる彼にとっては、目の前のことに全力を尽くすことが当たり前なのかもしれません。そうすることが、彼が自分自身に課した絶対的なルールなのでしょう。

 ある日の「なぞぺー」(思考力教材)の時間。Aくんはあるページで手が止まっていました。近寄ってみると、立体の面を数える問題に取り組んでいる最中でした。この問題では、床に触れている部分は数えません。つまり、立方体を数える場合、前後左右の面と上の面を合わせた5つが正解です。子どもたちには
「立体に印をつけて数えよう」
と伝えるのですが、Aくんはどこか腑に落ちない表情。
「あぁ、わからない!」
と声を発しながら、頭を抱えています。
「一緒にやってみようか?」
と話しかけました。すると、
「できないからやりたくない」
と拒否するAくん。解き方さえわかってしまえば解く力はあるのですが、人一倍間違えることに抵抗があり、正解の糸口が見えなくなると途端にやりたくないモードに入ってしまいます。 そこで、私は一つ質問をしました。
「Aくんは最初からなんでもできた?」
首を大きく横に振るAくん。
「そうだよね。きっと、最初からできる人なんていないんだよ。だから、間違っても大丈夫。間違いは、頭が良くなるチャンス。もう一回教えるからやってみようか」
その瞬間、Aくんの表情が変わり、
「失敗は成功のもと」
とつぶやきました。私は予想もしなかった言葉に思わず笑ってしまいました。どうやら、以前誰かに教わった言葉を思い出し、咄嗟に出た言葉だったようです。いままではわからない問題があると投げ出してしまうことがあったAくん。しかし、この一件以降、「失敗は成功のもと。失敗は成功のもと」と自分に言い聞かせるようにつぶやきながら取り組むようになりました。その姿が実にかわいいのです。誰でも最初からできる人はいません。壁にぶつかったときに、自問自答する経験をするからこそ、人は成長するのだと実感した出来事でした。

 子どもたちは成功体験を積み上げながら、褒められたり、認めてもらったりすることで、成長の階段を上っていくのでしょう。しかし、その階段の大きさは、子どもによってさまざまです。ときには立ち止まって、力を蓄えなければ上がれないこともあります。そんなときに、どうやって接していきたいか、Aくんから学んだような気がします。

花まる学習会 小松原学(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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