【花まるコラム】『それぞれの道』森田千宏

【花まるコラム】『それぞれの道』森田千宏

 年長授業で属性発見の問題に取り組んだときのこと。複数あるイラストのなかからほかと違うものを探しその理由を考える、思考力問題です。これまでも形、季節、用途などさまざまなテーマの問題に取り組んできました。今回の問題は「計る」がテーマ。デジタル時計や柱時計、目覚まし時計などタイプの異なる時計のなかにストップウォッチが紛れています。ひとしきり考えたFちゃんが挙手し「これだと思う!」と指したのは、腕時計のイラスト。Fちゃんがそう思った理由はこうでした。
「だって、これだけ外で使うためのものだから!」
 Fちゃんのひらめきに、唸らされました。確かに外出用に存在しているアイテムです。むしろ正解よりも魅力的な考えだと感じました。「時計かそれ以外か」としか考えられなくなっていた、凝り固まった私の頭に電気が流れたかのような瞬間でした。
 こうした子どもたちの思考過程を知れることや、オリジナリティのある考えに触れられること、問題への向き合い方を観察できることは、花まるの授業ならではのおもしろく幸せなひとときです。

 属性問題を扱う際は「正解することよりも自分の頭で考えて理由を言えることが大切だよ」と毎度声を大にして伝えています。また、正解でなくても発表した子には自分で考えたことを拍手で称えます。間違えても大丈夫だと安心して問題に向き合うからこそ、Fちゃんのような柔軟な発想が出てくるのだと思います。また、問題への向き合い方(ここでは間違いを恐れず自分で考えてみること)を評価することで、子どもたちもみんなの前で自分の考えを発表することを楽しむようになりました。

 高学年授業で扱う論理的思考力を鍛える教材「Sなぞぺー」では、思考の過程を書き残してもらうことをルールにしています。根拠を持たずになんとなく感覚的に解くのではなく、複数の条件を整理したり、表にまとめたり、場合分けをしたりして、筋道立てて考える必要がある問題のため、何かを書いてみないことには始まりません。私は毎週提出された全員の思考の過程に、必ず目を通しコメントしています。ときには正解にたどり着くまでに何時間も要するようなハイレベルな内容もあります。そんなとき、「めんどくさい」ではなく「おもしろそう!」「やってやるぞ!」と思えるか。問題に向き合う際の心の持ちようも大切です。子どもたちの取り組む様子を、インタビューしてみました。

 思考の過程だけでなく、問題にかかったタイムまで記録しているYちゃん。取り組むときは問題をコピーし、別室にいるお母さんとどちらが早くひらめくか勝負しているそう。Yちゃんは低学年の頃から「なぞぺー」(思考力問題)に触れてきているため「お母さんよりも早くできる!」という自負があり、毎回はりきっているそうです。家族と一緒にゲーム感覚で取り組むスタイルが、Yちゃんがポジティブに問題に向き合える秘訣です。
 ページいっぱいに自分の言葉を書き残しているIくん。彼のモチベーションは、みんなの前で解説をすること。本番でわかりやすく伝えるために、その考えを一生懸命に書き残しています。Iくんだけが別解に気づき、私に代わって発表したこともありました。自分の考えをみんなの前で披露したい!そのチャレンジ精神こそが、Iくんがポジティブに問題に向き合える秘訣です。

 子どもたちが伸びていくために我々ができることは、安心して取り組めるよう正解することだけでなく問題に向き合う過程を評価すること。おもしろそう、やりたいと思えるようにその子のハートに火が付く渡し方(環境)を工夫していくこと。YちゃんとIくんが違ったように、子どもによってきっかけはさまざまです。一人ひとりの個性を尊重しながら指導していきたいと思います。

花まる学習会 森田千宏(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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