【花まるコラム】『おやこにとっての「良質なストレス」』大塚由香

【花まるコラム】『おやこにとっての「良質なストレス」』大塚由香

 私が好きな子育てのキーワードのひとつに、「良質なストレス」があります。花まるグループの音楽教育部門「アノネ音楽教室」で使われている言葉です。長女がこの教室でヴァイオリンを習っているのですが、まったく思い通りにならない楽器の練習は、子どもにとってストレスがかかります。家での練習をちょこちょこさぼり、延々と「きらきら星」のうまくいかないワンフレーズを繰り返す日々。 「きらきら星」1曲ができるようになるのに、1年半もかかりました。「最初の1曲でこんなに大変だったのだから、次の曲はどれほど練習が必要なんだろう…」教本を進めはじめると聞き、そんな不安がよぎりました。しかしそれ以降、1曲が数週間で仕上がっていくようになったのです。本当に驚きました。ひらがなでも、自分の名前を書けるようになるとほかの文字の習得が早くなるように、弾くことに必要なスキルが身についたということなのでしょう。 それでも、ちょっとやそっとでは 思い通りにできません。 「次はこうしてみよう」と試行錯誤を繰り返し、体がついてきて初めて成立する。そのストレスがあってこそ技術や本物の自信が身につくのだから、「良質なストレス」だというのです。いま、飽きっぽい長女が毎日自分で楽器を開いて、音や弾き方にこだわるようになったのを見ると、その効果を感じます。一方で、この3年を通して思うのです。親にとっても、「良質のストレス」だったのではないかと。

 わが子の「うまくできない姿」を見守ることは、なんて難しいことでしょう…。「昨日はそこ、できていたよね?」「いまの適当に弾いたでしょ?」「音がよくないー!」余計なことが口をついて出そうになる。または、こらえきれずにまろび出る。表情に出る。そうなると、よくない空気で練習が終わります。できる限り見守ること。私にとっても訓練でした。

 あそびでも、同じようなことがあります。コマ回し、けん玉に竹馬…昔あそびには「良質なストレス」がかかるものが多いですね。長女が5歳のとき、初めて2つのお手玉に挑戦しようとしました。何度か手本を見せ、一緒にやってみて…それでもなかなかできない。そわそわと出かかる手を膝におさえつけ、口出しもぐっとこらえ、できるだけ笑顔で見守ることに徹しました。すると、「同時に投げたら…」「高く投げてみたら…」といろいろ試し始めます。「それじゃ絶対できないよね!」とツッコミたくなるような試行錯誤ばかりで、頭にぽとんとお手玉がぶつかったり、両方同時に落ちてきて慌てたり、明後日のほうへ飛んでいって追いかけたり…。そのたびに彼女はゲラゲラと大笑い。その姿は、大切なことを思い出させてくれました。子どもは失敗とも、練習とも思っていない。ぜーんぶ「あそび」なのです。「こうしたい!」と目的があって始めたとしても、やってみておもしろいことが起こったら楽しんじゃう。「これが失敗でこっちが成功」というのは、外の力、大人によって与えられる価値観でしょう。本気であそんでいるときこそ最高に集中している状態で、彼らのポテンシャルが最大になることは、いままで教室で見てきた子どもたちに教えられたことです。1時間ほど笑い転げながらあそぶうち、娘は2つの玉回しができるようになりました。

 小さい子たちの生活やあそびも同じです。 花まるおやこクラスでも、野菜のかけらをつかもうとトングを手にした子が、隣のお玉やスプーンにも興味を持って並べ始めたり、音を楽しんだり。積みあがった紙コップのタワーに興味をもっても、一つ手にしたら触り心地や噛み心地を確かめたくなったり、落としたときの動きに注目したり。「積み木」「ひも通し」などのおもちゃも、予想外の使い方であそび始めることが多いでしょう。その行動は全部、その子の内側から出てきた主体的なあそびです。そのうち、もともと想定されていた使い方を自分で発見すると、「おもしろいやり方、発見!」とばかり、イキイキ探求していきます。

 おやこクラスのあそびのグランドルール①は、「まず見守る。『予想外』や『偶然』も楽しみながら」。見守ることはときにストレスですが、「おやこであそぼう」と構えられるときには、おもしろい発見と小さな感動に出合うきっかけになるはずです。ようやく再開できたクラスで、子どもたちのあそびの時間を、また一緒に見守れることを幸せに思います。 

花まる学習会 大塚由香(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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