「自己肯定感」という言葉があります。自己肯定感とは、ありのままの自分を肯定する感覚のことで、他者と比較することなく、「いまの自分」を認め、尊重することで生まれる感覚のことです。「自己肯定感が高い」ということは、自分の価値や力を信じることができ、自分を大切な存在だと思えること。そう思うことを積み重ねていくと、たとえば自分の意見を堂々と伝えることができたり、健全な人間関係を築けたり、失敗してもめげずに前向きに挑戦を重ねて成長できたりと、「メシが食える大人」に近づいていきます。
教室で子どもたちを見ていると、この自己肯定感を着実に積み重ねているなと思わされることがたくさんあります。
年長Kくんは、毎回の授業でどんな些細なことにでも、自分で自分に拍手をおくっています。大きな花まるをもらったときだけでなく、教材の取り組むページを開けたときや、一つひとつの課題に挑戦し終えたときなど、60分の授業で10回以上は自分に拍手をしています。
そんなKくんの隣に座っていた子が「なんで毎回拍手しているの?」と聞きました。Kくんはその子に「頑張ってできたからだよ」と答えました。指定されたページを開くことや課題に取り組むことを当たり前にできると思う子もいますが、どんな些細な「当たり前」もほめていくことで、自分のことを自分で認めるという習慣がついていきます。
続いて、2年生Aちゃんの算数大会でのエピソードです。算数大会は、小学生コースでおこなう特別授業の一つで、数字や図形にまつわるゲームを通して思考力を鍛えます。子どもたちは、チームにわかれてゲームに挑戦します。正解数で優勝チームが決まったり、大会を通して輝いていた子がMVPに選ばれたりすることから、正解だと全力で喜び、不正解だと全力で悔しがりながら、子どもたちはとても真剣に取り組んでいます。
ある問題の答え合わせがすべて終わったあとで、2年生Aちゃんは「私は頑張って考えたから大きな花まる!」と自分の解答に大きな花まるをしていました。Aちゃんの解答用紙には、合っていた問題もあれば、間違っていた問題もありました。答え合わせをすると何問正解したかに注目しがちですが、Aちゃんは正解不正解よりも自分が頑張ったということに目を向けることができていました。
KくんとAちゃんに共通しているのは、自分が全力で頑張ったということを認めてほめること。この積み重ねが自己肯定感を高めていくのだなと2人から学びました。現に、KくんとAちゃんは挑戦する前から「できないかも…」とマイナスな発言をすることはありません。そして失敗をしても深く落ち込むことはなく、「次は頑張る!」「もう少しやったらできそう!」と諦めずに挑戦し続けます。
失敗に目を向けて進んで行くことも、とても大切なことです。目の前の課題が解けなかった、目標を達成できなかった、このような悔しい感情は、次は頑張ろうという気持ちにつながります。
ただし、私はそれと同じくらい、頑張った自分を認めてほめることも大切だと思っています。毎回毎回、失敗やできなかったことに意識を向け、できなかったことを責めるだけでは、気持ちは落ち込んでいき、「自分はできない」と挑戦することが怖くなってしまうでしょう。まずは自分が頑張ったことを認めたうえで失敗に目を向ければ、失敗を前向きにとらえることができ、次のためにまた頑張ることができます。
子どもたちには「ここまで頑張れたのだから、また次も頑張れる」と挑戦し続けてほしいと思っています。
教室では『肯定ファースト』で、まずは頑張ったこと、できた部分までを認めています。周りからの承認の声掛けをきっかけに、自分で自分をほめることも徐々にできるようになっていくでしょう。
「自分は頑張ったんだ!」という思いを持ち続けていけるよう、今後も声をかけて子どもたちの自己肯定感を伸ばしてまいります。
花まる学習会 右田優羽(2021年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。