花まるオンライン教室の小学生クラスでは、月に1回「〇〇大会」という特別授業があります。6月のコミュニケーション大会では、全国・海外の友達とつながっていることを知り、それぞれの地域に興味をもってほしい、自分のことを発表する経験を積んでほしいなどの意図でプログラムを準備しました。ですが、今回の特別授業は子どもたちにとって、そういった一つひとつの経験以上の価値があったのではと思います。
授業の最初に、子どもたちに「コミュニケーションって何だと思う?」と問いかけました。子どもたちからは、「意見を言い合うこと」「お互いにわかり合うこと」「みんなで楽しく何かをすること」「協力」などの意見が出てきました。一つひとつのキーワードをつなげていき、「コミュニケーションというのは、お互いに何かを伝え合って、わかり合うことなんだね。そのためには楽しい雰囲気のほうがよさそうだね。そして、楽しい雰囲気にするためには『自分だけが楽しい』ではなく協力することが大切なんだね」とまとめていきました。クラスによって出てくる意見が異なり毎回違う言葉でしたが、この「まとめ」をコミュニケーション大会の目標として伝えると、子どもたちの気持ちにもエンジンがかかり、気合いの入った表情で頷く子ばかりでした。
最初はお互いに探り探りで、名前を呼ぶのにも少し遠慮した空気でしたが、プログラムが進むにつれて距離感が近くなり、最後におこなった“物や動作でお題を表現するゲーム”では、いろいろな視点でアイデアを出し合うようになっていました。お題が「動物園」のチームでは、ほとんどの子がまず人形など「動物」の形を表すものを集めていました。それぞれが準備しているなか「動物園だから、檻があったほうがいいんじゃないかな」と、つぶやくAちゃん。それに対して「確かに!」と反応するBちゃん。檻に似た形の物を探した結果、フォークを小さい人形の前に立てて『檻の向こうにいる動物』を見事に表現しました!Cくんは、鉛筆やペンで複数の動物をわけて囲い、『檻でわけられている動物』が伝わるように工夫していました。BちゃんやCくんの『檻』を見て、Aちゃんはさらに「いいね~!」とリアクションを返します。アイデアを伝えて、受け取って、また返して…とコミュニケーションの連鎖です。ほかのチームでも、このような素敵な子ども同士のやり取りがたくさんありました。
たくさんの会話を通して、子どもたちのいつもとは違う一面が多く引き出された特別授業でしたが、それが子どもたちにとってどんな意味をもつのだったのかを、翌週の授業で知ることができました。というのも、子どもたちの授業に参加する様子が明らかに以前と違ったのです。最初に変化を感じたのは、いつも挨拶前におこなっているクイズの時間でした。一人の子どもが自分の好きな食べ物などをクイズにして、みんなで質問しながら答えを考えるのですが、子どもたち同士が自然と名前を呼び、それぞれの言葉に対してリアクションを取っていたのです。
そして、一番の変化を感じたのは、作文発表タイムでした。いままでも友達の発表を真剣に聞いていましたが、少し固く、何となくよそよそしい雰囲気が漂うときもあったのです。しかし、知っている友達の発表として、身近な出来事として、より興味をもって耳を傾けている子が増えていました。小さな変化ですが、聞き方ひとつで受け取る情報量は大きく変わります。そしてそれは、その子自身への刺激にもなるはずです。
コミュニケーション能力は大事だ、とよく言われますが、なぜ大事なのでしょうか。将来、どんな仕事に就いてもコミュニケーション能力が必要だというのも理由の一つでしょう。ですが、子どもたちが能動的に授業を受ける様子を見て別のことを考えました。コミュニケーションを上手く取れると、かかわった人との心のつながりが深まり、その人への関心も深まる。そして小さな関心・興味の積み重ねが、その子自身の世界を広げていくのはないでしょうか。90分のコミュニケーション大会は、子どもたちの世界をより豊かにしていく種まきの時間になったのではないかと思います。
花まる学習会 富永真子(2021年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。