【花まるコラム】『紙飛行機』田邊紘子

【花まるコラム】『紙飛行機』田邊紘子

 おうちでも楽しめる遊びと聞いて、私が思い浮かべるのは「紙飛行機」です。久しぶりにやってみようと、過去のサマースクールで使ったテキストを引っぱり出し、折ってみました。折りながら、ある一人の男の子のことを思い出しました。

 年中の頃からとにかく工作やお絵かきが大好き。せかせかすることなく、自分のペースを持っている子でした。1年生になり、算数プリントを終えると裏に絵を描いていたり、授業中、疲れて眠ったりしてしまうことも……。そして、1学期のHIT(Hanamaru Intelligence Test)では、問題を解き終わると赤鉛筆を持ち、丸つけを始めました。HITは子ども自身ではなく講師が採点するのですが、聞くと、「宿題のサボテン(計算教材)はいつも自分で丸つけをするから、そうだと思った!」とのこと。そういうわが子をお母さまは心配に思うゆえ「厳しい言葉」をかけてしまい、「あるとき、私の言ったことで過呼吸にさせてしまったこともあるんです…」と聞いたこともありました。

 そんな彼は、お母さまの強い希望で、サマースクールに参加することになりました。きっと行きたくないと言うだろう、「家にいたい」と腰が重くならないように、と夏休みが始まってすぐの日程のコースを選んだそうです。彼は家族と離れるのが淋しくて、家族の写真を持って行き、夜に淋しくなるとこっそりそれを見ていたというのを、後日リーダーから聞きました。
 2年生で参加したコースは「紙飛行機の国」でした。工作好きの彼にとって、「作る」「試す」ことが思う存分できる最高の時間。彼が夢中になったのは、「どうしたら遠くまで飛ばせるか」ということでした。何機も飛行機を折って、飛ばして、翼の調整をし、飛ばすのが上手なリーダーに何回もコツを聞きに行くほど熱心な姿を見せていました。その努力もあり、なんと飛距離コンテストで見事優勝。名前を呼ばれたとき、驚きながらもうれしさを全身であらわし、ピョンピョンとその場でジャンプしていた彼をいまでも忘れることができません。サマースクールから帰ってきて、その後の様子をお母さまに聞いたところ、「実はこんなことがありました」とある出来事を教えてくださいました。
 ご家庭の方針でゲームは持たせていないということでしたが、ゲームを持っている友達と遊ぶことになった日の話に。「やってみたい」という気持ちもあり、待っていればいつか貸してくれると彼は思ったようです。ところが貸してもらえることはなく、「できなかった」と怒って帰ってきたといいます。お母さまは「それなら、ゲームを持っていない子と遊べば?」と言ったそうですが、彼には別の方法がひらめきました。それは、紙飛行機を折って飛ばすこと。「自分がチャンピオンになったスカイキングを折ってみんなで遊ぼう」と考えたそうです。「みんなは折り方を知らないから」と友達の分も折ったのだそう。「わが子がゲームがなくてもお友達と楽しく遊べるように、と考えたことが何よりうれしいです」とおっしゃっていました。

 ゲームができないからいやだと思うのではなく、もっと楽しいことがあるはず、と前向きに考えたこと。自分だけではなく、みんなで遊べるようにと考えたこと。サマースクールのその場だけで終わるのではなく、家でも紙飛行機をやってみようと続けたこと。ひと夏の1回のきっかけで、こんなにも成長したのだなとうれしく思ったものです。

花まる学習会 田邊紘子(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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