今年度も残りわずかとなりました。オンライン授業が続くと直接子どもたちと言葉を交わすことができませんが、そのぶんマスクのない顔をじっくり見て授業ができる喜びを感じております。
先日のオンライン授業で扱った、4年生の「GoodJob!国語」という教材のなかに、矢口高雄さんの『ボクの学校は山と川』という物語がありました。
小学1年生の男の子が5、6年生と中学生の先輩に唆され、学校をサボって山に行き木の実を食べて遊びますが、サボってしまった(悪いことをした)罪悪感から家族や先生のことが頭にちらつきます。「みんなが帰る時間に合わせて家に帰ればバレない」と言われてその通りにしましたが、心配した先生が自宅に来たことでバレてしまいます。しかしお母さんは怒らず、「おいしかった?」と優しく聞いてきて、それによって罪悪感がさらに強まり、二度とサボらないと誓った、というお話です。私はこれを読んだとき、バッと昔の記憶が蘇って思わず目が潤んでしまいました。というのも、これとほぼ同じ経験を、小学5年生のときにしていたことを思い出したからです。
その頃、仲の良かった友達に、二人で映画を見に行こうと誘われました。母にそのことを伝えると、「子どもだけで映画を見に行くなんてダメです!」と怒られてしまいました。すると友達が「私のお母さんがついてくることにすればいいよ」と提案してきました。私は映画を見たい気持ちから、母にそのように嘘をついて子どもだけで映画館へ行ってしまいました。しかし、映画を見ている最中も「バレてお母さんに怒られるんじゃないか…」という気持ちが常にあり、なんだかいい気持ちではありませんでした。終盤にさしかかっても、おもしろいはずの映画がまったくおもしろいと感じられず、怒られないかの不安だけが頭のなかをいっぱいにしていました。そんな状態で映画を見終わり、 バレないように平静を装って家に帰ると、母は「楽しかった?」と聞いてきました。そのときの母の様子がいつもと違うことに気づき、また、正直楽しくなかったという気持ちから、黙っていました。そして、母が続けて「さっき、○○ちゃんのお母さんにお礼の電話をしたのよ。そうしたら、そんなこと知らないって」「もう一回聞くよ。楽しかった?」と言ってきました。怒られると思っていたのに、楽しかった?ともう一度聞かれ、その瞬間にブワッと涙が出てきて「楽しくなかった」と大泣きしながら答えました。
それ以降、私は嘘をついてまでして何かをしようと思うことはなくなりました。嘘をついて成功しても何も楽しくないということと、親を悲しませるということを学びました。あのときにそういった経験をしておいてよかったと、いまでは思います。大きくなってからもっと取り返しのつかないことをして母の信頼を失ってしまったら、あのときと比べものにならないほどの後悔をすることでしょう。
いまの4年生にそういった経験はあるかと聞くと、みんな「ない」と答えました。もちろん、そんな経験はないほうが良いです。こういった本などで学ぶことが一番です。しかし、私は経験してよかったと思うからこそ、子どもたちに一度は「罪悪感に打ちひしがれる」経験をしてみてほしいとも思います。そのときどのように感じて、反省して、その先どう成長するのか。大きな成長を、子どもたちに与えてくれると思います。そのようなことがあったときは、最初に「それをしてみてどうだったか」を聞いてみてください。そこで悪いことをしたという自覚があれば、大きく成長することでしょう。
花まる学習会 草替美柚(2022年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。