【花まるコラム】『わからない、は間違っている』岡本祐樹

【花まるコラム】『わからない、は間違っている』岡本祐樹

 「よーいスタート!」
「…どういうこと~!」
初めて見る問題にものの数秒で嘆く1年生。
「どれ?」
と優しく聞いてあげる2・3年生。

 小学生コースの算数大会(特別授業)にて、あらゆるところで見られた光景です。今回の大会から「隣の子であれば相談OK」としました。コロナ禍においてこれまではほかの子との相談はなし、という形式でおこなってきましたが、昨今の感染状況からひとまず隣の子であればOK、とすることになりました。
 教えている子は答えが言えないので「この足の形を見てごらん」とヒントを出したり「そういうこと!」と考え方を認めてあげたり、相手を思いやって接していることがはたから見ても伝わります。教えられている子にもその思いやりがもちろん伝わっていて、安心して考える姿がありました。この姿が、なんとも美しく心打たれます。

 ある問題で、その空気はぱたりとなくなりました。「ちょっきん、どんな形?」は、折り紙を折って切って開いたとき、どの形になるか選択肢から選ぶ、という問題です。実物の折り紙は手元になく、問題の平面図のみで考えるとなると、問題の意味理解、折り紙を開くイメージを持つ空間認識力、折り紙を二回開く過程を記憶する力、図形センスと、求められる力が多い問題でした。
 この問題には経験豊富な2~3年生でも「?」という表情の子が多く、教室の空気がすこし止まったように感じました。
「わかんないな~」
1年生が口火を切ると、これまで言っていなかった2~3年生からも
「わかんない~!」「意味わかんない」
の声が。教室内が「わからない」という言葉で埋め尽くされるようでした。

 一度、手を止めて私の話を聞いてもらいました。
「わからない、って言っている人がいるね。それは、間違っているから言わないほうがいいよ」
…いやいや、わからないと感じたからそう言ったのに、間違っているってどういうこと? 先生が変なことを言っている。そんな表情で私を見る子もいました。
「この問題を見て、考え方がピンと来なくて困っているんだよね。でも、そのときのみんなの気持ちって本当は『わかりたい』なんだよ。そう思っていなければ、わからないと言う必要がないよね。何も言わずに考えるのをやめればいい。わかりたい、けどうまくいかない。それがみんなの本当の気持ちのはず。だからみんな『わからない』と言うのはやめよう。言いすぎるとだんだん『私はわからない、わかることができないんだ』って諦める気持ちになってしまうから。『わからない』じゃなくて『わかりたい』って言おう」

 ではあと2分、よーいスタート!
 途端に教室を埋め尽くす「わかりたい!」コール。先生たちは走り回りました。そんな前向きな言葉をかけられたら、助けてあげたい気持ちがさらに強くなるものです。停滞を感じさせていた教室の空気は一気に循環をはじめ、熱を帯びた強い流れの空気に変わっていきました。
 何事も「わかりたい」と思っていれば、言葉にしていれば、学びの意欲が止まることはなく、その場の雰囲気を良いものにし、理解が深まっていく。私は強くそう信じています。

花まる学習会 岡本祐樹(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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