【花まるコラム】『三人寄れば』水野青空

【花まるコラム】『三人寄れば』水野青空

「ねえ、これ、どうだった?」
「私も知りたい!」
「えっとねー…」
女の子3人がプリントを見せ合って考え込んでいます。「三人寄れば文殊の知恵」なんて言いますが、3人はおそらくこのことわざを知りません。けれど誰かと力を合わせたら何とかなることを知っている1年生と2年生の女の子が、一緒に一生懸命、1つの問題に頭を悩ませていました。

 これは、先日行われた小学生クラスの特別授業「国語大会」での様子です。月に1回行われる特別授業のなかでも、その場で初見のゲームに挑戦する大会は、一味違います。異学年の子どもたちが力を合わせて取り組む点も、普段の授業と異なります。
 ゲームを始める前に、大会中のルールを説明。今回はそのなかで、「椅子から立たず、大きな声を出さず、近くの子と協力するにはどうしたらいいか」を子どもたちと一緒に考えました。半分だけお尻を椅子から浮かせてプリントを見せ合う練習をして、いざゲーム開始。冒頭の景色が見られました。

 3人がプリントを見せ合っていたのは、語彙力が問われるゲームでのこと。1・2年生が知らない言葉もたくさんあるようです。もっている知識でわからなければ、声に出してみたり意味を考えたりして推理するように伝えていました。諦めずに考え抜いたほうが、後々の解説まで楽しめるからです。
「ここはさー、『大きい』じゃない?」
「えー、Mはこっち!」
眉間に皺が寄って、意見の不一致で解散か?と思いきや、
「こっちは?」
「これは知ってる!」
「ありがとう!」
と別の問題にも挑戦します。

 3人は、もともと仲が良かったわけではありません。最初に1年生Aちゃんが、斜め前の2年生Mちゃんに声をかけ、いつの間にか首をにょきっと2人に向けた1年生Oちゃんがスッと会話に入ったことで生まれた関係性でした。先生に「相談してみたら?」と促されたわけではなく、自然と力を合わせようと集まったのです。この3人が特別というわけではなく、同じように半分お尻が浮いた子が、教室のあちこちに見られました。

 サマースクールでも、同じような光景が見られました。「火おこしの国」というコースの2日目の活動では、最後に子どもたちだけで火をおこし、30分以上消えないように火を燃やし続けます。
 それまで一緒に取り組んでくれたリーダーは、見守ってくれるだけ。子どもたちはどうするのだろうかとハラハラしていたのですが、本人たちはへっちゃらです。うまく火がつかなくたって、自分たちで話し合います。誰かのせいになんてしません。火が消えてしまっても、
「またつけられる!」
「薪の組み方を変えてみよう!」
と張り切ります。
「選挙をしましょう!」
とあるチームからちょっと気取った声が聞こえてきました。様子を見に行くと、最初の火つけ役を決めようとしていました。ここで「やだ!僕がつけたい!」なんてことを言う子はいませんでした。
「やってみようよ!」
「勇気を出してさ!ポンと入れるだけだよ!」
優しい声がするほうへ行ってみると、燃え盛る火に薪をくべるのにたじろいでいる1年生に、高学年の子たちが励ましの声で背中を押しているところでした。少しずつ火に近づいて、薪を手に取り、ポン、と火に入れる。ここまでにどれだけ時間がかかっても、気持ちが固まるまで子どもたちは支え続けていました。

 子どもたちは自然と協力をすることができますし、切磋琢磨して高め合うことができるのだと、改めて感動しました。

 大人がどれだけ手を尽くしても伝えきれないことがありますが、子どもたちは子どもたち同士の話し合いや衝突のなかで、自然と学んでいきます。逞しいと思うと同時に、少し手を離れていってしまったような寂しさも覚えますね。教室でも野外でも、子どもたち同士の化学反応があちこちで起こるように環境を整え、促し、成長を見守ってまいります。

花まる学習会 水野青空(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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