『愛少女ポリアンナ物語』をご存じでしょうか。原作はアメリカ人小説家 エレナ・ホグマン・ポーターの『少女パレアナ』です。主人公ポリアンナは、幼いときに家族を亡くしたり、大きな事故にあったりと多くの困難を経験します。しかし、どんなときにも「よかった」と思えることを探す、通称「よかった探し」をして、周囲と自らの人生を明るいものにしていく物語です。
恐らく多くの人がこの「よかった探し」を無意識のうちにしてきた一年だったのではないでしょうか。度々の行動制限。毎日の感染者数の発表や他国での戦争のニュース。自分の力ではどうにもできず、ため息をつきたくなる日もあったはずです。だからこそ「よかった探し」をして一日いちにちを過ごしていくことが、目の前の家族や仲間の幸せのため、そして何より自分の幸せのために、一人ひとりができることだったのではないかと思います。
「よかった探し」をしていると気がつきますが、時間が経ってから、ふと「よかった」と思えることが多くあるのです。特に教室での仕事をしていると、一人ひとりの成長を待つ、ということが求められます。1回の授業の中で大きな変化が見えなくても、時間が経ち振り返ってみると、成長に気づく。かかわり続けてきて「よかった」と思える。それを保護者のみなさまと喜び合える。また「よかった」と思える。とても幸せなことです。今回は、教室の「よかった探し」をしていきます。
1年生の子。小学生になる前に読み書き計算を学ばせるご家庭も多い昨今ですが、その子は1年生になってからそれらを始めたそうです。1学期はほかの1年生と大きく差がありましたが、3学期になるとほとんど差がなくなりました。花まる漢字テストにも合格。「サボテン」(計算教材)で1日1ページの自分との勝負を頑張り、記録を更新しています。ひたすら前の自分と比べる声かけをして、小さな成長を喜び合った1年でした。先取り学習は本質ではなく、どの時期に何をどう学ぶかが大事なのだとその子を通して学びました。そんなことを、取り組む姿勢をもって教えてくれた彼に出会えて「よかった」と思いました。
2年生の子。何でもスピーディーに取り組む子で、「なぞぺー」(思考力教材)も早く終わるのですが、1年生の頃は「レインボータイム」(発展的な思考力課題)を勧めても「うーん、いいや!」と積極的ではありませんでした。2年生になり、粘り強さが少しずつついてきた頃です。「レインボータイムやる!」と、自ら取り組む姿勢を見せるようになりました。「お、いよいよ本気を出すんだね!」と言うと、ニヤッと笑いました。この子にとっては、このタイミングがよかったのだ、と思いました。1年生のときにやらせよう、やらせようと、大人のエゴでレインボータイムを強制させなくて「よかった」とも思いました。いまこうして、こんなにイキイキ取り組む姿に出会えたのだから。
4年生の子。1学期の作文は、いつも「マインクラフト」について書きました。好きなんだなぁ、ということは伝わりましたが、ほかのテーマの作文も読んでみたいものでした。しかし、書き直すようには伝えず受け止め続けました。2学期になって、少しずつ日常の何気ないことについても書き始めました。読んでみると、短い論説文のようでおもしろいのです。4年生から花まるを始めた彼にとって、好きなことをまずはひたすら書く、というステップが必要だったのだと気づきました。そしてこの変化に誰よりも驚いていたのは、入会当初から書く力を心配していたお母さまです。一緒に成長を喜びあえるそんな瞬間が訪れて「よかった」と思いました。
「よかった探し」のポイントは、いま、目の前にある当たり前を見つめて、遡ってみることではないでしょうか。「よかった探し」が得意だったポリアンナのように、小さな幸せにたくさん気づけるよう、いまと未来にワクワクしながら生きていく。そして時々、「よかった探し」をして、幸せをかみしめる。子どもたちにはそんな姿を見せていきたいですね。
花まる学習会 船水萌(2022年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。