年中・年長クラスでは、テキストのなかに運筆のページがあります。この運筆ページでは、描かれている形の上をテキパキとなぞります。はみ出してもいいので、適度な速さで。
小さい頃からお絵描きが大好きな私が、当時運筆ページに取り組んだとしたら、おそらく適度な速さではなぞれなかったでしょう。少しでもはみ出すまい、美しく描きたいと、強いこだわりをもって臨んだと思います。クラスのなかには、私のようにこだわりをもって臨みたがる子もいます。気持ちは理解してあげられますが、それではこの運筆の目的と異なるので、指導をしていきます。
運筆の目的は、手首を柔らかく動かして「手と目の協応力」を鍛えていくこと。小学生クラスにあがると、運筆課題は転写に変わります。高学年以降は、板書をノートに書き写しながら内容を理解したり、作業をしたりすることが増えるため、写しながら考えられるように、転写力を鍛えていきます。
さて、本題に。先日の年中クラスの運筆課題は、ひし形でした。角が4つあるから四角形になるという基本的な知識は、いままでも繰り返し伝えてきているせいか、年中の子もわかるようになってきました。
「今日の形は、名前がついている四角形だよ」
と伝えると、
「なんか見たことある形~」
と子どもたち。
「あ!お雛様のピンクと白と緑のおもちに似てる!」
「なんていうおもちだったっけ~」
お雛様を思い出そうとしています。
「わかったよ!ひしもち!」
とSちゃん。さらにTくんが気づき、
「ひしもちだから、ひしがた!?」
思考の連携プレーがすごいなぁと感心しました。
小学2年生の男の子が、遊びで立体の図形を描いて遊んでいました(ちなみに花まるの子どもたちは、立方体の描き方を、絵描き歌にして覚えています)。頂点を適当に描き、その頂点を結んで面にしていき、辺を描いて立体に仕上げていました。
「先生!これも六角形ですか?」
たまたま浮かび上がった面を指し、正六角形以外にも六角形があるということを発見したのでした。すでに知識をもっている人からしたら当たり前のことかもしれませんが、彼にとっては「へぇ~そうなんだね!」と大発見のようでした。それから友達同士で、何角形まで立体を描けるか、競い合って遊んでいました。すると別の子が発見しました。
「机のネジも椅子のネジも正六角形じゃん!」
「マジで!?スゲーッ!!」
男の子たちは世紀の大発見をしたかのような驚きと感動で、教室中のネジを探し始めました。「ネジ探し」と言葉にすると、なんだかおかしな光景に思えてきますが、正確に言うと、「正六角形のネジ探し」をし、モノによって違うそれぞれの規定の形があることにおもしろさを見出していたのです。
日常のなかにある形を見て、子どもたちが興味を示すのは、その形の知識(名称だけでも)を得たからなのでしょうか。実際に目で見て触れてわかったことと、自分が知っていることがリンクしたときの感動や驚きは、本人にしかわからないでしょう。そういう経験は、貴重なことだと思います。知る喜び、わかる喜びがあるから、日常がより楽しくなる。少なくとも私の教室の子どもたちは、まるで宝探しのように目を輝かせて、日常の発見を楽しんでいます。
花まる学習会 田中涼子(2021年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。