【花まるコラム】『力を信じて』佐藤達也

【花まるコラム】『力を信じて』佐藤達也

 この夏、2年ぶりにサマースクール(花まる学習会の夏期宿泊イベント)を開催しました。子どもたちそれぞれに躍動、成長、不安、奮闘など、さまざまな心の動きがあったことでしょう。そんなサマースクールで、子どもたちの可能性を広げるのは他ならぬ子ども自身だと感じる出来事がありました。

 今回の舞台は “火おこしの国”。このコースは文字通り、火おこし体験がメインです。サマースクールでは、子どもたち8人程度に1人のリーダーがつき班を構成します。1日目はリーダーを含め、この班全員で火おこしを行いました。初めて扱う道具で慣れない火おこしに挑戦する子どもたち。まずは着火の練習です。ファイアスターターという道具を使い、麻に火をつけようと悪戦苦闘。「なかなかつかないや」「火花は出ているんだけどな…」と言いながら、徐々にコツをつかみ始めていました。そして唐突に火がつくと「わっ!みてみて!ついた!ついたよ!」と驚きと嬉しさが入り混じったような表情を見せていました。着火の練習を終えると、いよいよ本格的な火おこし。私も指示を出したり、「木の組み方はどうする?」と子どもたちと相談したりしながら進め、なんとか火おこしを成功させることができました。

 そして、ここからがこのコースの山場。2日目は子どもたちだけで着火から火おこし、そしてついた火を1時間燃やし続けることにチャレンジします。(安全を考慮し、最も危険な着火した種火を薪に移すところのみ、リーダーが行います。)私自身、1日目の様子を見て不安に感じることもありましたが、アドバイスすることをグッとこらえながら、子どもたちの様子を見守っていました。

 1回目のチャレンジでは、一度は大きく火が上がったものの徐々に小さくなり、そのまま消えてしまいました。ただ、ここですごいなと感じたことは、落ち込んだり私に助けを求めたりすることなく、自分たちで何がよくなかったか、次はどうするかを考え、話し合い始めたことです。実は、火おこしを始める前に、宿長(宿の責任者)がこんな話をしていました。
「今回は子どもたちだけで火おこしを行います。もしかしたら、うまくいかないこともあるかもしれない。でもそんなときも自分たちで考え、仲間同士で助け合えばきっと火はつけられるよ!」
子どもたちはその言葉を思い出したのかもしれません。作戦会議のあとは、一度火がついてからも油断せず、「火が小さくなりそう!」「薪が足りないよ!」「この薪はここに置こう!」と声を掛け合い、自分の役割をまっとうし、一致団結して取り組みました。そして、みごと1時間燃やし続けることに成功しました。子どもたちの「リーダーがいなくても、火おこしできたよ!」と誇らしげに言う姿には、一皮むけたたくましさがありました。

 このとき私は何をしていたかというと、安全管理と子どもたちの鼓舞のみ。子どもたちをじっと見守り続けました。普段は「先生」と呼ばれる立場であるからこそ、子どもたちに何かを伝え、成長させたいという思いもありました。しかし、子どもたちの力を信じ、その背中を見守り、そっと支えることも大人の一つの役割なのだと感じたのです。

 うまくいかないときに、大切なことは、必ずしも手助けをすることとは限りません。声をかけるのをグッとこらえて子どもたちの可能性を信じることが大切なときもあります。いま、目の前の子どもたちにとって何が最も大切かを考え続け、これからも子どもたちとかかわり続けてまいります。

花まる学習会 佐藤達也(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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