みなさんは「ito(いと)」というカードゲームを知っていますか。
1から100までの数字カードを1人一枚引き、ある一つのお題から自分が引いた数字に見合う「もの」を考えてそれぞれが発表します。1を引いたらお題とは正反対で遠いもの、100を引いたらお題にぴったりと当てはまるものを発表します。お題は、「やわらかいもの」「生まれ変わったらなりたい動物」「給食の人気メニュー」などさまざまです。自分の数字をほかの人に見せたり言ったりしてはいけません。最終的に、それぞれが発表した「もの」を全員で検討し、数字順に並べることができたら成功です。伝わりそうで伝わらないことがもどかしくもおもしろい、価値観の違いを楽しむ協力ゲームです。
先日、私は友人と5人で「ito」を楽しみました。数字カードを一枚ずつ引き、ゲーム開始です。お題は「美しいもの」。私はとても悩みました。そもそも、美しいものの100は何でしょうか。満開の桜? 雲一つない青空? はたまたダイヤモンド? では、美しくないものは何でしょう。ぬかるみ? 洋服のシミ汚れ? 散らかった部屋?
そうです。このお題は、一人ひとりの価値観によって答えが大きく異なります。何に重きを置いているか、何を大切にしているかがそれぞれの答えから見えてくるようです。
私は64を引き、「シャボン玉」と答えました。日の光を虹色に反射させるシャボン玉。宙を浮遊する不安定さも、最後は消えてなくなってしまう儚さも、私の「美しい」という価値観をさりげなく刺激するものでした。続いて、友人Rが「5本のバラ」と答えました。「これはシャボン玉のほうが美しいぞ」と私は心のなかで思いました。バラは枯れてしまう。また、5本という本数からも、そこまで大きな数字ではないと判断しました。
しかし、ほかの友人は「5本のバラはシャボン玉よりも大きな数字なのではないか」と言います。バラはあとにも残るものだ。また、『美女と野獣』の物語にも登場するように、バラは美しいものの象徴だ、と。逆に、シャボン玉は消えてしまうため50より小さな数字なのではないかと。
結果、友人Rが引いた数字カードは57。私は64。私は友人と「美しいもの」のとらえ方が違うことがわかりました。
このような価値観の違いは、どんなに気の合う友達とでも、考え方が似ているパートナーとでも、同じ場所で生きてきた家族とでも、起こりうることなのではないでしょうか。それぞれの価値観のどちらかが正しくて、どちらかが間違っているわけではありません。価値観を同じにしなくてはいけないということもありません。
1年生のMちゃん。先日、お母さんの手を触ってみたそうです。「あのね! つるつるだったの!」と私に笑顔で話しました。「まるで赤ちゃんの肌みたいだね!」と私が声をかけると、「うん!」と大きく頷きました。そのことをお母さまにお伝えすると、「最近ハンドクリームを塗ることにハマっていて」と笑っていました。私は、肌がきめ細かく整っている様子は「すべすべ」と表現するものだと勝手に思い込んでしまっていました。Mちゃんが表現した「つるつる」という感触は、Mちゃん自身が心からそう感じたのだと伝わってきました。
年中授業で行った色水の実験。たくさんの絵の具を混ぜて作った液体は、茶色になりました。それを見て、「なんだかおいしそう」と言ったKくん。今朝おうちで飲んだ大好きなココアを想像したのだそうです。その日は子どもたちと一緒に、さまざまな色の液体を並べて、ティーパーティーを開催して遊びました。
花まるの授業では、子どもたちのありのままの表現や、価値基準を大切にしています。「みんなが美しいと言っているから、美しい」と判断するのではなく、自分の心が動いたか、自分はどう感じたのかを教えてねと伝えています。花まるの教室が、一人ひとりの感じ方、考え方の違いを認め合える場所となるよう、今後も子どもたちの声を聞き、素直な気持ちを肯定してまいります。
花まる学習会 水谷真奈(2022年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。