勉強をしているなかで一度は考えること。それは「なぜ勉強をするのか」ということです。子どもたちからも、「なんで勉強しなきゃいけないんだろう?」という疑問が出てきます。子どもたちのなかには “勉強はしなくてはいけないもの”という意識があるようです。
どうすれば子どもたちが前向きに勉強や宿題に取り組むことができるのか、そう考えていたときに出会ったのがRちゃんでした。Rちゃんは、2年生から花まる学習会に通い始めました。とても明るい女の子で、毎週「花まるって本当に楽しい!」と言いながら、授業に参加していました。しかし、あとから聞いた話ですが、通い始めたばかりの頃は、宿題に取り組むたびに癇癪を起こしていたそうです。教室ではそんな素振りを一切見せずにいたので、ご家族から話を聞いて驚いたのを覚えています。癇癪を起こす理由に心当たりがあるかRちゃんに聞いてみたところ「決まった時間に宿題に取り組めないことが嫌だから」とのこと。そこで、Rちゃんが「この時間にならできる!」と思う時間にアラームを鳴らすことをおすすめとして伝えました。それからは、おうちの人にも協力してもらいながら、自分の中で宿題に取り組むサイクルができあがっていったことで、癇癪を起こすことはなくなっていきました。
そんなRちゃんも月日を重ね、高学年クラスへ。高学年クラスになると、宿題の量が圧倒的に増えます。最初は宿題をやってくるので精一杯。この頃からRちゃんは「花まる、つらいなぁ…」とつぶやくようになりました。それでもやるべきことはしっかりやりたいという意志が強く、宿題をやらずに来ることは一度もありませんでした。そんなある日、Rちゃんから1本の電話が入りました。
「先生、あのね…宿題がつらいです」
いつも元気なRちゃん。私の前で弱音を吐いたのは、これが初めてでした。しかし、随分前から辛そうにしていることには気づいていました。いままで私の前では無理をして「宿題を忘れずにやるいい子」になって自分を守っていたのです。少しずつ話を聞いていくと、泣きながら、
「言葉調べの宿題で、辞書を開いてノートに書き写すのに時間がかかりすぎてしまい、イライラする」
とのこと。ゲームもやりたいし、友だちとも遊びたい。けれど、宿題があって自分の時間がなくなるのが辛い、これがRちゃんの本音でした。その話を聞いて、
「話してくれてありがとう。ずっと声をかけてあげられなくてごめんね。実は前から辛そうにしているのは知っていたよ。でも、Rならきっとできると思って、見守っていた。Rから話してくれたことがとても嬉しい。これからも辛いと感じたら、いつでも電話しておいで」
とだけ伝え、電話を終えました。
翌週から、毎週決まってRちゃんから電話がありました。その電話は、宿題が辛いと弱音を吐くRちゃんの話を聞き「頑張ってみる?」と伝えるだけのもの。そして、この電話を続けて数か月経った頃、弱音を吐くのとは違った電話に変わりました。
「先生、聞いて!今日ね、友だちと夕食は何が食べたい?って話をしていたの!答えが同じで、そのときに、『これが以心伝心か』って思った!」
この一件からぱったりと“弱音電話”が来なくなりました。きっと、Rちゃんが調べた事柄が、知識として定着していたことを、この経験から実感したのでしょう。最初は辛い宿題も、やがて習慣となります。習慣になると、新たに得る知識に喜びを覚え、使えることで楽しさを感じるようになります。この積み重ねが、子どもたちの人生を豊かにしていくと私は信じています。先生は教えることが本業ですが、ときには同じ歩幅で進みながら、子どもたちと知ることの喜びを楽しむ人でありたいと心から思った出来事でした。
花まる学習会 藤枝詩織(2021年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。