【花まるコラム】『大人の反応』土方日向

【花まるコラム】『大人の反応』土方日向

 保育園の発表会での出来事。演目は「シンデレラ」。配役がどのように決められたかは覚えていませんが、私の役は、「時計」。目立ちたがり屋だったので、主役は女の子しかできないという演目自体に納得できていないし、さらには生き物でもない「時計」という役割を与えられて、決して乗り気ではなかったことをよく覚えています。出番の多いシンデレラ役の子に嫉妬していましたが、私にできることなどなく、いくら駄々をこねようとも配役が覆らないことぐらいわかっていました。言われるがまま演出され、練習をこなす日々。

 そして、いよいよ本番の日です。時計役の私は、時計の被り物をして舞台に登場し、こんなセリフを残してはけていきます。
「チクタクチクタク。シンデレラ!舞踏会の時間だよ!チクタクチクタク」

 私は自分に与えられた役割をただこなしただけだったのですが、観客の反応は予想だにしないものでした。観に来ていたお母さんたちからは、楽しそうな笑い声と、「かわいいー!」という歓声が上がったのです。私は袖にはけたあと、心がフワフワして、恐らくニヤニヤしていたことと思います。それに味を占めた私は、気合を入れて次のセリフを放ちました。
「チクタクチクタク。シンデレラ!もうすぐ12時になっちゃうよ!チクタクチクタク」

 小学校の学芸会ではいつも主役に立候補し、希望した役割を任せてもらえるときもあれば、そうでないときももちろんありました。しかし、たとえ主役でなかったとしても、そこでくよくよし過ぎずに、私に与えられた役割を全うしていました。当時、「あのとき、時計役で活躍できたのだから、自分の役を全力で演じよう!」と思っていたわけではありません。ただ、いま振り返ってみると、脇役中の脇役である時計役で、大歓声を浴びたあの経験こそが、私の幼児期の自己肯定感を育んでくれた出来事であったと感じています。あのとき、もしも観客が無反応であったならば、時計役であったことを苦い思い出として封印していたことでしょう。

 子どもたちの自己肯定感を育むという点で、まわりの大人たちのリアクションはとても大切だなと感じます。たくさん努力をしている、という前提を理解したうえでのアクションに対しては反応がしやすいですが、何気ない言動や当たり前のようにしていることに対しても、あえて大きな反応を見せてあげると、それが自信につながることもあります。

 花まるの教室でも、子どもたちを承認する機会を多く設けています。答えに花まるをつけたり、ポイントをあげたりすることも、大人からの反応の一つです。以前、元花まる生に、「花まるで一番記憶に残っていることって何?」と聞いたことがあります。すると、「たこマンでたこマン大賞をもらって、チームの先生がハイタッチしてくれたこと」と、その子は答えました。毎授業行っている大賞の発表一つ取っても、子どもたちにとっては一大イベントであることを改めて認識しました。「子どもたちと同じ目線で、喜怒哀楽をともにする」ということは、私が子どもたちと接するうえで大切にしていることであり、教室運営をするうえでも講師間で共有する必須事項としています。これからも子どもたちとさまざまな感情をともにしながら、私が受け取ったあの大歓声を、今度は教室の子どもたちに届けてまいります。

花まる学習会 土方日向(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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