【西郡コラム】『巣立ち、道場で学んだこと』 2022年4月

【西郡コラム】『巣立ち、道場で学んだこと』 2022年4月

 卒業を祝し、新たなステージへの門出を激励する「中学進学お祝い会」を今年も開いた。この会では、卒業生に道場での学習を振り返り、心に残ったことを作文に書いてもらっている。一人の小学6年生がこんな作文を書いた。
 「ぼくは、五年生のときに西郡学習道場に入りましたが、最初の頃はあまり算数ができなくて六年生なってもあまりできませんでした。残り1か月となったときにだんだんあせり始めました。そこで公式を書いたノートを作りました。受験の日にそのノートを持って会場に向かいました。そうしたらノートに書いた問題がでました。そして算数の時間に感かく的にできたと感じました。(略)」
 授業がない日も彼はオンラインで毎回、自学室に来ていた。しかし、真剣に学習に向かっている様子は見られず、ただ座っている状態が続いた。自学室担当の講師が“個別教室”に呼び、学習の進捗状況を聞いたり、学習の仕方を伝えたり、彼をなんとか学習に向かわせたいと、いろいろ働きかけた。「彼がどこまでわかっているかわからない。反応が薄く、わかったと聞くとうなずく。次回また同じことを学習する必要がある」毎回のように担当した講師はこう報告してきた。私立中学を受験する、彼の意志は変わらなかった。なんとか結果を出してくれ、と祈る気持ちで彼を入試へ送り出した。なかなか合格が出ず、何日も何校も受け、最後に数回受験した学校から、やっと合格がでた。
 道場に通った2年間の学習で、彼が最も心に残った学習は「公式を書いたノートを作った」ことだった。入試まで1か月を切って焦り、自分でなんとかしなくてはいけないと切羽詰まった末の学習が、これだった。たったこれだけのことかもしれないが、彼にとって、初めて彼が自ら取り組んだ学習、自分事として捉えた学習だった。彼が道場に通って当事者意識をもった学習が「公式を書いたノートを作った」ことだった。自分に正直に、この作文に書いた。どんなに些細なことでも、自分事として捉えなければ、学習は始まらない。自らなんとかするという、この経験がこれから生涯続く、彼の学習の礎になってくることを信じて、私たちは彼を中学へ送り出す。
 子どもだけではなく、春は講師も卒業する。小学生5年時から道場に通い、道場で中学受験をして一貫校に進学、高校生からは花まるの野外体験のリーダーになり、大学に入ってからは4年間道場の講師をつとめた。そして、就職が決まり、道場を離れる。「お別れ会」で彼女は、こう挨拶した。
 「私は道場ではない、違う塾に通っていた。カンニングをしたりしていて、成績も出せず、その塾から『あなたは、中学受験は無理』と言われた。道場に拾ってもらった」こういう話から始まり、道場でどのように学んでいったかを吐露してくれた。道場「学習の心得」の一つに「ごまかさない、できたふりをしない」というのがある。どんなに簡単な学習でも自分がわかることを一つひとつ積み上げ、「ごまかし」や「ふり」の呪縛から解放されて、学習に対する、彼女の意識が変わっていった。
 講師として道場に戻ってきた彼女は、成長していた。生徒に優しく声をかけ寄り添うも、学習への厳しさに対しては毅然と生徒に諭す。瞬時に、その生徒のいまの状態を見抜き、最も適切な言葉をかける。生徒も彼女のいうことを素直に受け入れる。できなかった自分の過去を正直に見つめた経験から、できない、わからない子の気持ちがわかる指導者になっていた。一般企業に就職するのが惜しいと思わせるほど「いい先生」になっていた。
 最後に彼女はこんな話をしてくれた。道場に入って最初の居残りで、帰りが遅れることを保護者に伝えることになった。しかし、彼女は母親の携帯番号を知らなかった。そこで、私が彼女に番号のメモを渡しながら「母親の携帯番号ぐらい覚えておけ」と言ったそうだ。彼女は電話番号を覚えるまで、そのメモを持っていた。彼女が道場に入って最初にやった“学習”が、この「母親の携帯電話番号を覚える」ことだったそうだ。携帯番号を覚えることが、彼女が主体的に自分事として取り組んだ学習だった。そして、道場での学習が始まった。
 いくら教えても仕方がない。学習は自分がどうするか。当事者意識をつくることを第一に考え、道場を創った。「公式をノートに書いた」「電話番号を覚えた」これだけのことが、自分でなんとかする学習、当事者意識をもった学習だった。学習の始まりであり、そして、心に残る学習だった。

西郡学習道場代表 西郡文啓

道場心得
「学ぶ、やりぬく意志をもつ」
学習は自分がどうする、からはじまります。できない、わからないから学びます。困難に挑み、逆境、挫折、失敗を経験して、自分事として捉えたとき自分の学習になります。自ら学ぶ意志をもち、そして、やり抜き、学習を習慣にすることで、学習は生きる力になります。意志とやり抜く力が自分の学習を開拓します。


🌸著者|西郡文啓

西郡文啓 1958年生まれ。県立熊本高校卒業。高濱代表とは高校の同級生、以来、小説、絵画、映画、演劇、音楽、哲学等、あらゆるジャンルの芸術、学問を語り合ってきた仲。高濱代表が花まる学習会を設立時に参加。スクールFCの立ち上げを経て、花まるグループ内に「子ども自身が自分の学習に正面から向き合う場」として西郡学習道場を設立する。2015年度より、「地域おこし協力隊」として、武雄市の小学校に常駐。現在「官民一体型学校」として指定を受けた小学校「武雄花まる学園」にて、学校の先生とともに、小学校の中で花まるメソッドを浸透させていくことに尽力中。

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