【西郡コラム】『「比べない」には、大きな意味がある』 2025年2月

【西郡コラム】『「比べない」には、大きな意味がある』 2025年2月

 6時30分から朝道場が始まり、子どもたちは発声・音読をして、「サボテン」(計算)に取り組みタイムを計って自分で答え合わせをする。「サボテン」の答え合わせまで正しくやれているか、昨日の日記を書いているか、スタッフが確認したあとで子どもは退出する。「サボテン」は見開き2ページが1日分。同じ解き方で解ける計算問題がひと月続き、月が替わると内容も変わる。
 解き方がわかっても、ミスなくスラスラできるようになるため日々練習をする。子どもたちは解き方を思い出し、できる問題をやり、わからない、できない問題は答えを見て赤で答えを書き写す。
 今月の4年生「サボテン」の1日分には、1ページ目左半分に最大公約数を求める問題が16問、右半分に分数を約分する問題が20問、2ページ目左半分に異分母の足し算が6問、右半分に異分母の引き算が6問ならぶ。やり方がわかるまで何も書かない、間違えを恐れて第一歩が踏みだせない慎重な4年生の生徒がいた。オンラインは他者と比べる意識を弱めるが、それでも「サボテン」を終えて退出する生徒が増えていくと、自分はできていない、遅れていると感じて悲しい表情をする。他の人と比べなくていいと声をかけてから解き方を伝える。「同じ数で割れる数のなかで最も大きな数が最大公約数になる」と解き方を説明すると、その生徒は(36,48)→(6)と書いてきた。正解ではないが、まずやってみたこと、同じ数で割ることができたことをほめる、認める。いま、わかること、できることでやってみることが大切。それから間違えれば正すという試行錯誤が学習の基本であること、人とは比べないことを「サボテン」から学ぶ。
 この生徒はごまかさない、できた振りをしない、わからないことを隠さなかった。わからないこと、できないこと、間違えたことに愚直なまでに正直に向き合い、赤で正解を書いていた。だから、確実に成長していった。
 「サボテン」は1か月同じ解法の問題が続く。どんな子も月半ばになると計算ミスはあっても解法は定着する。「昨日の自分」より、より正確により早く、その日のタイムを書いて自分が進歩していること、集中したことを感じる。月の終わりにはスラスラできるようになる。人と比べての評価では学習意欲は続かない。自分がわかったこと、できたこと、没頭したことが学習の喜びとなる。
 花まる学習会と提携する自治体の公立小学校で、全学年全クラスで1時間目が始まる前の、朝の時間に音読、計算、書写、図形問題を約15分おこなう「花まるタイム」を実施した。「花まるタイム」の指導法は事前に学校職員に研修して、私たちはクラスを巡回する。
 6年生25名の子どもがいるクラスで「サボテン」をやっていた。一斉に始めて、一日分の「サボテン」を解き終えた子どもは手をあげる。早く終わった子はまわりを見渡し、自分がどれほど早いかを確かめる。遅れて手をあげる子は、自分より遅い子を探す。そして、やり方がわからず、できない子は人に見られないように「サボテン」を隠す。私が答えを読み上げ、子どもたちは自分で丸付けをするが、間違えを消し鉛筆で答えを書いて赤で丸をする子もいた。「サボテン」のほんの数分の時間が、人と比べ序列をつくる時間、ごまかす時間になっている。これでは私たちが提供する「サボテン」ではない。数日間見学しても、改善は見られなかった。
 巡回をやめ、このクラスの「サボテン」を私が指導させてもらった。6年生の子どもたちに「この時間は私たちが市に提供している『花まるタイム』です。これまで見ていると、みなさんは人と比べたり『サボテン』を隠したりしています。これでは朝の大切な時間に『サボテン』をやる意味がありません。『サボテン』のやり方を伝えます。『サボテン』は一気集中して取り組み、計算力を高め、みなさんの頭を活き活きさせる学習です。そして大切なことは人と比べないことです。みなさんそれぞれ能力も成長も違います。比べても何も生まれません。『昨日の自分』より、より正確により早くやることで自分の成長が感じられます。自分自身がわかった、できた、そして自分が成長したと感じることがみなさんの学習の喜びになります」と数日言い続けた。劇的な変化はなかったが、他者を見渡す子も減り、「サボテン」を隠す子がいなくなるなど変化は見られた。
 通知表があり、運動会のかけっこで順位をつけることがあったとしても、比べないこと、一人ひとりの学びを伸ばすことが根底にあれば、学校は楽しくなる。

西郡学習道場代表 西郡文啓


🌸著者|西郡文啓

西郡文啓 1958年生まれ。県立熊本高校卒業。高濱代表とは高校の同級生、以来、小説、絵画、映画、演劇、音楽、哲学等、あらゆるジャンルの芸術、学問を語り合ってきた仲。高濱代表が花まる学習会を設立時に参加。スクールFCの立ち上げを経て、花まるグループ内に「子ども自身が自分の学習に正面から向き合う場」として西郡学習道場を設立する。2015年度より、「地域おこし協力隊」として、武雄市の小学校に常駐。現在「官民一体型学校」として指定を受けた小学校「武雄花まる学園」にて、学校の先生とともに、小学校の中で花まるメソッドを浸透させていくことに尽力中。

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