【花まるコラム】『すべてが僕の力になる』小川凌太

【花まるコラム】『すべてが僕の力になる』小川凌太

 先生は、高校生のときに打ち込んだものがある。バスケットボールだ。バスケットボールは高校1年生から始めた。中学生のとき、遊びから始めて、高校でもやろうと思った。でも入学した高校は、あと一回勝てば全国大会に出られるくらいの強豪校だった。それもあり、同級生はバスケットボールの試験を受けて合格した子ばかり。先生は勉強で合格して高校入学をした。つまり先生の周りの子たちはみんなバスケットボールが上手だった。「月とすっぽん」ということわざがあるよね。あまりにも実力がかけ離れているという意味。先生の場合はそれではおさまりきらないくらいの差だった。「月とすっぽん」の差を、月が10すっぽんが1だとしたら、周りの子は100。先生は1くらい。
 まず、毎日の練習が大変だった。すべての練習についていけなかった。練習についていけない先生は邪魔者扱いされた。これは辛かった。全国大会を目指すことは、簡単なことじゃなかった。試合にもまったく出場できない。それもそのはず。周りは全国レベルの実力を持っている人ばかり。そこに素人の先生が入ったとしても、敵うはずもない。ドリブルの仕方も、パスのもらい方も、シュートの打ち方だってわからない。先輩から「お前はずっと掃除でもやってろ!」と言われたときには、さすがにまいった。

 それでも、ずっと続けていたことがあった。それが毎日の朝練習。これは全員参加ではなくて、やりたい人だけがやる練習。行かないと怒られるとかそういうものではなかったけれど、先生は毎朝4:30に起きて、学校に誰よりも早く行って、7:00から体育館の掃除をして、1時間くらいシュートの練習を続けていた。体育館の掃除も必ずするものではないけれど、これには自分の中でプライドがあった。それは先輩から言われた言葉。「お前はずっと掃除でもやってろ!」と言われて、「誰にもマネできないくらいピカピカに掃除してやる!」と思った。だから毎朝、体育館をピカピカにしてから朝練習をしていた。自分の中で、誰にも負けない武器を手に入れようと思い、思いついたのが、朝練習に行き続けることと、掃除だった。他の子が休んでいるときでも、絶対に自分は休まない。これが自分の中で、習慣になった。そして、バスケットボールも少しずつ上手になった。今までできなかった練習ができるようになり、決められなかったシュートも決められるようにもなっていた。
 試合に出場することも増え、後輩たちに教えることも増えてきた。迎えた高校3年生の夏。夏には全国大会があり、6月ごろから予選が始まる。その予選メンバーに入る選手に、公式戦で着るユニフォームが渡される。予選前の最後の練習が終わり、メンバー入り選手が発表された。次々と呼ばれる同級生。続けて、後輩で先生よりも上手な子たちも呼ばれていく。最後の1枚。ユニフォームを渡されたのは、1年生だった。悔しかった。それでもチームのために、と思って誰よりも応援した。試合に出る後輩の練習相手や、ストレッチとかを手伝うこともあった。大会の結果は、ベスト16。全国大会には出場できなかった。
 全国大会への出場、試合のメンバー入り。思い描いた目標はどれも達成できなかった。でも、バスケットボールをやっていてよかったなと思う。それは“困難を乗り越えた経験”が、自分の力になっていると思ったから。大人になってわかったことがある。それは、どんなことでも、自分のためになるということ。それが大変であれば大変であるほどいい。みんなにもそんな経験があると思う。もしかすると、いま、その大変なものに悩まされているかもしれないね。「もうやめたいな」って思うときがあると思う。その大変さをわからない友達もいると思う。でも忘れないでほしい。それが「すべてが僕の力になる」ということ。いまみんながやっていることは、絶対に力になってくれる。辞めたいと思うときこそ、“困難を乗り越えられる”チャンス。でもみんなは一人じゃないよ。困ったら誰かに相談してみてね。おうちの人、学校や花まるの先生もいろいろな困難を乗り越えているはず。きっと、どんな困難もみんなの力になる。すべてが僕の力になるのだから。

花まる学習会 小川凌太(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

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