【花まるコラム】『問題文を最後まで読まないワケ』川村優駿

【花まるコラム】『問題文を最後まで読まないワケ』川村優駿

 年長クラスの「ひみつのしれい」という、お題に沿って心と体を動かす時間のことです。「ひみつのしれいのところを読んでいいよ!」「ひみつのしれい。にんじ…。にんじんになりきろう!」「にんじん?!(笑)」「こうだよ(笑)」「すごい!にんじんになりきってる(笑)」「じゃあ、先生と一緒にもう一回読んでみよう!」「ひみつのしれい、忍者になりきってみよう!」「にんじんじゃなくて、忍者ですね!」「忍者か~(笑)」「忍者はどんな武器を使う?」「手裏剣!」「そうだね!シュシュシュシュ!!」「シュシュシュシュ!にんじん!」「にんじんにもなった!」「忍法、にんじんの術!」。忍者になりきろうというお題だったのですが、Zくんの読み間違いで思わぬほうへおもしろく変容していきました。忍者になったり、にんじんになったり。みんなで変身を楽しんだ時間でした。Zくんは「にんじゃ」の「にんじ」まで読んで「にんじん」が心に思い浮かんだのでしょう。だからそのままににんじんになりきろうとしたのだと思います。

 低学年クラスの夏期特別授業で単位換算「長さ」に関する問題を出したときのことです。「日本で一番高い山は~…」「富士山!!」 「(富士山)ですが~…その富士山は標高何mでしょうか?!」「ええ~!先生ずる~い!」「わかんな~い!」問題の途中でわかったときにはすぐに答えを言っていた子どもたち。もともと私が出そうとしていた質問を最後まで聞く前に「富士山」と答えていました。今回はクイズ感覚でやったので「ああ~!」という感じで終わったのですが、 これがテストや算数の文章問題だったらどうなるでしょう。 そのときの子どもたちの気持ちも、おそらく「富士山!」と答えたときと同じ気持ち、同じ感覚なのではないかと思います。子どもは途中まで問題文を読み、すぐに「わかった!」と思ったら答えたくなってしまう。最後まで問題文を読まずに間違えてしまうというミスが減らないのも、わかる気がします。

 よくお母さま方から「最後まで問題文を読まずに解いちゃうんですよね」というご相談をいただきます。子どもたちはなぜ最後まで問題文を読まずに答えてしまうのか。それは問題文を読みながら、途中でわくわくする気持ちが強くなったり、「あ!わかった!」という喜びや快感を感じたりするからだと思います。問題を最後まで読み終える前に心が躍って答えてしまうのでしょう。
 Zくんも低学年の子どもたちも、心で感じてそれがそのまま行動につながっていました。頭で考えて行動したというよりも、心が動いたからこその行動だったのだと思います。もし最後まで問題を読み考える力があれば、そもそも早とちりしなかったはずです。成長して大人になるにつれ、根拠をもって理詰めで考えたり、物事を順序立てて考えられるようになったりします。ただ、大人とは違って読み間違い一つで笑顔になれるのは、心で感じて行動する子どもたちの良さだと感じました。思考よりも心で生きているから、どんなことであれ「おもしろそう!」「楽しい!」「大好き!」と感じたことがそのまま行動につながるのでしょう。そしてそれは、子どもたちがわかったということに喜びを感じている証拠。心で感じるからこそ、学ぶことを好きになれるのだと思います。

 「ああ~!(笑)」とクイズ番組のような感覚で何度も間違えてしまうかもしれませんが、楽しく繰り返せば必ずその経験から間違えた理由やその内容に気づけるときが来ます。また、いずれは何で間違えてしまったのかを分析することで、「今日は最後まで問題文を読むようにしよう!」と自分で心から思えるようになり、同じ間違えをしなくなるのだと思います。子どもたちは何かが「わかった!」と思うとその瞬間にうれしくなったり、楽しくなったりします。だから問題文を最後まで読まずに何度も間違えてしまうのですが、そのときの気持ちを何よりも認めてあげることこそが、子どもたちの学びにつながるのだと感じます。今後も子どもたちが問題文を最後まで読まず間違えてしまったときは「ああ~!おしい!」と間違えたことを引きずらないよう声をかけたいと思います。

花まる学習会 川村優駿(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員のみなさまにお渡ししています。

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