【花まるコラム】『緊張することは大事なこと』加藤美耶乃

【花まるコラム】『緊張することは大事なこと』加藤美耶乃

 保護者面談にて、3年生Kちゃんのお母さまがわが子の緊張についてお話しされていました。
「大会や検定の前、Kはすごく緊張しています。算数大会(小学生コースの特別授業)に向かう道中、『3年生になったからしっかりしなきゃ!』という思いがあったようで、すごく緊張していたんです。でも、帰って来たら『やっぱり楽しかったー!』と言っていました。ほかの習い事でも、緊張をしすぎて引き返して来たことがあって。今度のHIT(小学生コースで行うテスト)も心配です…」

 このお話を受けて、「私自身はどのようにして緊張というもの克服したのだろう?」と考えた結果、ある出来事を思い出しました。
 ウロウロ、モジモジ…。小学4年生の私は、たい焼き屋さんの前を右往左往していました。一人で商品を買うことに緊張していたのです。500円玉を握りしめ、心のなかではずっと「これください!」と呟いて練習していました。「よし、言おう! …やっぱりやめた」「いや、いまだ! …まだ勇気が出ない」何十回もこれを繰り返した末にようやく口に出せた「これください!」は、思っていたよりも難しいことではなかったように感じられました。
 同じように、Kちゃんにも「緊張したけれど、やってみたら意外と平気だった!」と感じられる経験を積んでほしいと思いました。

 そして、HIT当日。私は開始前に子どもたちへ「緊張する人?」と投げかけました。すると、どの教室でも半分くらいの子が手を挙げます。
 そのとき、私の頭には以前読んだ小説の一部が思い浮かびました。小学4年生の女の子が舞台のオーディションを受けている場面。「なぜ舞台をやりたいと思ったの?」という質問に対する彼女の返答です。

それは、緊張するからです。人見知りを直したいという意味じゃありません。緊張するってことは、それがあたしにとって大事なことなんだなって思うんです。その時間はどきどきして、いつも学校や家で感じている時間とは全然違って、三倍くらいの長さに思えます。こんなに緊張するってことは、これからあたしがやろうとすることはあたしにとって大事なんだって思うから。大事なことは大事にしなきゃって…

恩田陸『ドミノ』より

 私はこの小説に倣って、緊張する! と手を挙げた子どもたちに向けて、「緊張するということは、それは自分にとって大事なものなんだよ」と伝えました。

 緊張している間にも、子どもたちの心のなかはグルグルといろいろなものが駆けめぐっています。たい焼き屋さんの前にいた私のように。緊張には、「できなかったらどうしよう」という気持ちが多く含まれているのでしょう。つまり、緊張とは「良い結果を出したい!」「頑張りたい!」という意欲があるからこその感情だと思うのです。自分にとって大事なことだとわかっているからこそ、それに向き合いたくて緊張しているのです。その子のなかに勇気が芽生えるまで、大人が待ってあげる。「やるぞ!」となったときに全力で応援することができれば、あとは自力で頑張れるのが子どもたちです。

 すべてのテストを終え、私はKちゃんに「どうだった?」と尋ねました。するとKちゃんはホッとした表情で「楽しかった!」と言い、笑顔を見せて帰っていきました。今後も子どもたちの感情に寄り添い、サポートし続けてまいります。

花まる学習会 加藤美耶乃(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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