【花まるコラム】『Aちゃんの決意』宮阪太久哉

【花まるコラム】『Aちゃんの決意』宮阪太久哉

 「ここまで続けてきたからこそ、得られたことがたくさんあります。辛いこともあると思うけれど、自分を信じて自分で考えて、頑張って花まるを続けてみてください」
 これは、昨年度の最終授業で、卒業するAちゃんが後輩たちに伝えた言葉です。Aちゃんは、年長から花まる学習会に入会して6年生まで続けた子の一人です。低学年の頃は、「イエイ!」や「できたー!」を大きな声で言い、周りの子を笑顔にするようなタイプの子。しかし、高学年になると少しずつ周りを意識して大人しくなり、学年混合チームを組んでゲーム形式で取り組む特別授業では、ほかの子に譲ることが多くなるなど控えめな一面も見せるようになりました。ただ、勉強が好きなことは変わらず、コツコツとできることを積み上げていったのでした。

 そんなAちゃんも6年生になりました。私は6年生の初回授業で「花まるの最終学年の目標を立てよう」と提案しました。Aちゃんはしばらく黙ったまま考えていました。そして、「2つあって、1つはSなぞ(思考力教材)の発表を頑張る。最近、そういうのから逃げていたから。もう1つは、作文。作文がもっとうまくなるように工夫する」という目標を言葉にしたのでした。最近そういうものから逃げていたから…彼女の自分を俯瞰する目と、本当は逃げたくない、そこから成長したいという意志に胸が熱くなりました。

 まず変化を感じたのは、Sなぞぺーの発表時でした。それまでは問題を解いてくるということはできても発表になると恥ずかしがるところがありました。しかし自分で立てた目標を胸に、手を挙げ始めたのです。講師もその行動を全力で認め、声をかけました。最初は小さい声での発表でしたが、だんだんと慣れていき、最終的には周りから「A先生」と言われるほど、堂々としたわかりやすい説明をするようになりました。ひとつ殻を破ったことが、説明するときの表情からも伝わってきました。

 作文の場面でも、変化が出てきました。以前からスラスラと書けていましたが、自分の感情を素直に表現するという部分で苦戦していました。そこで、Aちゃんは授業時に作文を1作品書き終えると2作品目を裏に書くことにチャレンジし始めました。その2作品目は、哲学してみたり、日頃の問題意識をぶつけてみたり…普段書かないような心の内面を書き連ねることも。

 そんななか、花まるの作文コンテストがありました。Aちゃんは昨年度は気合いが入りすぎてうまく書けなかったことを覚えていて、「今回は、賞を狙うよりも自分の書きたいことを書く!」と決めていました。自分の気持ちに素直に。内容は、「楽しみにしていたイベントが最終学年にもかかわらず中止になってしまったこと」でした。ただ、悔しいとか残念という気持ちだけで終わらず、事実を受け止め、今後の決意も書き連ねた文章でした。書き終わったあとに感想を聞いてみると「書きたいことは書けた」とあっさりとした返事。しかし、その表情は満足気でした。

 そして、作文コンテストの結果発表の日。Aちゃんの作品は、なんと全教室の子どもたちの作品のなかから「学年賞」に選ばれました。Aちゃんはそれを聞いて、静かに喜びました。目標を立て、それに向かって努力し続け、結果が出たことに喜びを噛みしめている様子でした。聞いてみると「賞は嬉しいけれど、それよりも自分の気持ちを素直に作文に書けたことが嬉しかった」と。「自分がどうしたいか」に対して忠実に行動をしてきたAちゃんだからこその言葉に、彼女の成長を感じました。

 Aちゃんはこの一年、自分の意志で目標を決めて行動してきました。自分の気持ちに嘘をつかず、向き合い、自分で選択していくこと。その大切さをAちゃんから改めて教わりました。教室で子どもたちと接していても、「目標」や「こうしたい」の気持ちが必ず一人ひとりの中にあると感じています。そこに寄り添い、後押しすることを今後も大切にしたいと感じた出来事でした。

花まる学習会 宮阪太久哉(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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