【花まるコラム】『ムイカの歓喜』花岡宏哉 2024年9月

【花まるコラム】『ムイカの歓喜』花岡宏哉 2024年9月

 昨年末、雪国スクール「花まるスキー王国(エキスパートクラス)」に班リーダーとして参加しました。
 直前まで新潟県の湯沢地域は雪不足の影響でスキー場が開かず、初日は近くの広場で雪遊びをして大盛り上がり。自分たちよりも大きな雪だるまを作ったり、かまくらを完成させたり、雪合戦を楽しんだり……。何もない雪原で無限に遊びを生み出す子どもたちの姿が微笑ましく思えた、そんな初日でした。
 2日目、なんとか隣町のスキー場がオープンしたということで、バスで40分ほどかけてムイカスノーリゾート(新潟県南魚沼市)に行きました。そこでのエピソードを綴ろうと思います。
 私が担当した班の2年生Yくん。彼は、「パラレルターンを成功させたい!」という目標を達成するために、マイスキー板を持参してこのコースに参加しました。ところが午前中の彼の様子を見ていると、その意欲とは裏腹にどこか消極的。気になった私は、二人でリフトに乗った際に聞いてみました。すると「とにかく安全に滑りたいんだ」という言葉が出てきました。
 Yくんには、スキーをしている最中に怪我をした過去があり、それがトラウマになって思い切った滑りができないとのことでした。目標としていたパラレルターンには挑戦することなく、午前中のスキーは終了。
 宿には帰らずに、そのままスキー場で昼食を食べていたときのことです。「八の字は安全だけれど、なんかなぁ」とボソッと一言。モヤモヤを抱えている様子でした。
 吹雪が強まり寒さが一段と厳しくなってきた午後のスキー。一寸先も見えない状況です。日も傾きはじめ、バスに乗って宿に帰るまであと1時間。いよいよ終わりの時間が近づいてきたとき、Yくんがチームの仲間に向かって「全員でパラレルを成功させよう!」と言ったのです。きっと、このままでは終われないという気持ちと、この班の仲間たちとなら成功できるという気持ちがYくんの言葉を生んだのでしょう。
 Yくんの言葉をきっかけに、チームの仲間の教え合いが活性化しました。Yくんは、5年生Kくんの「ターンするときに少し板をあげてごらん」というアドバイスを参考に、最後の1時間をパラレルターンの練習に費やしました。
 そして迎えた終盤、なんと全員がパラレルターンを成功させたのです。吹雪のなか、輪になって喜ぶ子どもたち。スキー場の名前を取って「ムイカの歓喜だ!」と叫んでいました。
 間もなく帰りの時間。「あと一本いけるけれどどうする?」と聞くと、Yくんは「もういいかな」と満足そうな表情で答えました。一足早く集合場所に向かおうとしたとき、彼がもう一度口を開きました。「リーダー、最後にやっぱり滑りたい!」と。
 顔が凍るほどの吹雪のなか、滑り終えたあと、Yくんたちを祝福するかのように吹雪はピタッとおさまり、綺麗な夕焼けを見ることができました。
 達成感に満ちあふれた彼の表情。目を見合わせて私とグッドポーズ(  )の瞬間、言葉はいりませんでした。
 宿に戻り、Yくんにパラレルターン成功の秘訣を聞いてみると、「『板を動かさないぞ!』と思い続けたら勝手に体が動いたんだ!!」と興奮気味に教えてくれました。
 翌日は雪国スクール最終日。宿からすぐ近くのスキー場もオープンしたとのことで、午前中にスキーをしました。リフトに乗っているときにYくんが「リーダー、パラレルターンをするときはね、実は上半身が大事なんだよ」と教えてくれました。
 昨日とは打って変わって理論的な秘訣に驚きましたが、言われてみれば私の小さい頃もそうだったなと思い返しました。
 逆上がりでも、二重とびでも、説明を聞くよりも、何度も失敗して、それでも立ち上がって練習をし続け、いつの間にかコツを掴んでいく。
 習うより慣れろ、理論より実践と言い換えてもいいでしょう。まさに小さな成功体験が自信になる瞬間です。
 Yくんが一歩踏み出せたのは、間違いなく仲間の存在があったからです。仲間がそばにいるからこそ、最後の一歩が踏み出せる。花まる野外体験の醍醐味が詰まった3日間でした。

花まる学習会 花岡宏哉

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