「あさがお」という転写教材を、低学年コースでは扱っています。1日1ページずつ、毎日取り組むのですが、丸付けをする際に1つ約束があります。それは「トメやハライを意識して書けた字」「大きく書けた字」など素敵な字を見つけてその字に小さな花まるをつけること。 ご家庭で宿題として取り組むときは保護者の方から、教室では講師から、この小さな花まるをつけます。
あるとき、「あさがお」の時間に2年生のMちゃんが興味深い行動をとりました。教室で講師から小さな花まるをもらった彼女は、おもむろに赤鉛筆を取り出します。そして、「よし、これもいい」そうつぶやきながら自分もいくつかの字に小さな花まるをつけていったのです。ここまで真っ直ぐな「自分で自分を褒める」行動を久しぶりに目の当たりにし、心が洗われました。「自分で自分のことを褒める」誰しもが照れくさいと思ってしまうことを、無邪気な幼児期の子どもはためらうことなく行動に移せるようです。そして、「最後に自分で自分のことを褒めたのは、いったいいつだっただろう」大人になるとふとそんな切ないことを思ってしまいます。
彼女と同じ、小学2年生のときの思い出があります。家のリビングで1mほど高さのある窓枠から床にダイブする、なんとも迷惑な遊びを2歳下の妹と繰り広げていました。「ドシン、ドシン」と音が響くので、当然ながら叱られます。考えた末、私は持ってきた座布団を床に敷きました。座布団に向かって飛び降りるのですが、「このままだと着地した足が座布団を越えてしまうなあ」と幼いながらに思った私は、窓側の壁から20㎝ほど離れた場所に座布団を敷き直して再び遊び始めました。その私たちの行動を、父は隣でずっと見ていたようです。「いいことを思いついたね。それは、理科の考え方だよ」3年生から始まる新教科の学習にドキドキしていた私は、その父の言葉でパアッと目の前が明るくなりました。
次の日から学校で、「好きな教科は理科!」と学習がまだ始まってもいないのに教室で豪語するようになりました。
あまりの自分の単純さに思い出しては自分でも恥ずかしくなってしまいますが、それぐらい大人から褒めてもらったことは幼い心に沁み込んでいくのです。Mちゃんもそれと同じ心理だったのでしょう。ご家庭では保護者の方に、教室では花まるの講師に自分の字を褒められて…たくさん認めて褒めてもらった経験が彼女の土壌となり、先ほどのような行動に出たのだと思います。
あるとき、年長の子どもたちが突然こんなことを質問してきました。「『花まる学習会』ってなんで『花まる学習会』って言うの?」けれど、彼らはすぐにわかりました。「わかった! 花まるをたくさんもらえるからだ!」。そして満面の笑顔で年長教材「ひまわり」を見返しながら「花まるがたくさ~ん!」とページいっぱいの花まるをながめていました。
大人になるにつれて、褒めてもらえる経験は少なくなってしまうかもしれません。そして、自分を褒める気持ちも忘れてしまいます。だからこそ、目の前の子どもたちのいまこの時期に、私たちが注ぐ一つひとつの言葉や花まるに思いを込めて向き合っていこうと思うのです。
花まる学習会 高津奈都子(2023年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。