【花まるコラム】『手紙を届けたい人は誰だろう』吉田優太

【花まるコラム】『手紙を届けたい人は誰だろう』吉田優太

 Aさんへ
 今日は、私からAさんへ伝えたいことがあります。一番伝えたいのは、「その気持ち、痛いほどわかるよ」ということです。経験した人にしかわからないことがあると思います。もちろん、私の経験とAさんの経験は、「とても似ている」だけです。まったく同じではなく、状況が似ている点が多いだけです。だから理解できることもあれば、わかってあげられないこともあると思います。すべてをわかってあげたい気持ちはあるけれど、そこまで簡単な話ではないよね。それでも、少しでもAさんの背中を押すことができたら、先生は幸せです。この前の野球の公式戦。Aさんが打席に立って、ラストバッターになったんだよね。自分が打席に入って、アウトになり「試合終了」。何かできたんじゃないか、と感じるよね。とてもつらかったね。手を負傷していなければ、うまくバットが出せたかもしれない。いつもなら打てていたボールも、このときはとらえられなかったのかな。もどかしいし、やるせないね。ただ、ケガをしているのを知っていた監督は、Aを試合に出してくれた。なぜだろう?これをチャンスととらえるか、「なんでケガしているのに、試合に出すんだ」と考えるかは人それぞれだと思います。お母さんから状況は聞きました。監督の心中を私が勝手に想像するね。今回の試合は、上級生と一緒に試合ができる最後の試合。負ければ、次の練習からは、Aさんたち3年生が引っ張っていかないといけない。そのうえでの公式戦最後かもしれない試合。どんな結果になってもAさんに経験を積ませたい。そう考えて、Aさんの未来、チームの成長を見据えて起用してくれたと感じるよ。誰かに想いをつなげたい。負けた悔しさをバネにできるのは、残された人間。かつ、同じ空間にいた人です。ベンチ内にいたほうがその空気感はより強く、生々しい。スタメンで出ていればなおさらツライね。でも監督はAさんなら感じ取ってくれると考えたのだと思うよ。まさか最後のバッターになるなんて、予想していなかったと思うけれどね。私にも同じような経験があります。とある決勝戦、私がライナーを打って捕られて、決勝戦、試合終了。最後のバッターになってしまいました。周りがすべて違って見えるよね。誰にも負けたことを責められない。「いつもは話しかけてくれるのに、私が最後のバッターになったから…」と悪い方向にとらえてしまうよね。大事なのは、「次はどうするか、いまから何をするか」だと思うよ。日々の練習の素振り、一本一本を大切に、最後の試合のあのボールをイメージしながら鍛錬していこう。応援しています。あと、これだけは自信をもって言えるよ。
『この経験はAさんのこれからの人生においての財産になる』
大人になったら、一緒に話そうよ。どんな物語になるか、楽しみにしているね。

 数週間後、私からの手紙を読んだAさんから、返事が届きました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
せんせいへ
 Aのことをかいてくれてありがとうございます。
Aのこと わかってくれてうれしくてないちゃった。
あきらめないでがんばってやりたいからたくさんおしえてください。
Aより
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

短文のなかに想いがギュッと込められた手紙。「Aのこと」のあとの『空白』。Aさんの想いが伝わってきて、気持ちの交換ができた瞬間でした。Aさんのお母さまも、Aさんの手紙を読んで安堵しているようでした。子育てに統一の解答なんてない。一緒に最適解を考えていきましょう!それが私のコラムで伝えたい、大切にしている想いのひとつです。

花まる学習会 吉田優太(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

花まるコラムカテゴリの最新記事