【花まるコラム】『あなたにとっての「灯台」は?』町田光優

【花まるコラム】『あなたにとっての「灯台」は?』町田光優

 港町で遊ぶサマースクールに参加したときのことです。夜の海岸に灯台の光が見えました。灯台の光が遠くまで届くほど、船は安心して航海を続けられます。

「あなたがどこに行くときも、ここで見守っているよ」

灯台が放つ光にそんなメッセージが込められているような気がして、ある生徒との日々を思い出しました。

 現在6年生のBくんと出会ったのは、彼が2年生のとき。自分がやりたくないことにかんしては「え~もうやだよ~」「やりたくない~!」と言って、とことん避けようとしていました。作文ではほぼ毎週「おちてたりんごをひろった」という内容の作文を書いていました。Bくんにはその作文を書いて褒められた過去があったようで、いつも一字一句同じ内容です。「たまにはほかのことも書いてみようよ」と話すと、「え~? じゃあなにも書きたくな~い!」と机の上に突っ伏してしまいます。やりたい理由もなければ、やりたくない理由が特別にあるわけでもない。自分の気分が最優先。そんな状況に何か変化のきっかけを起こせないかと試行錯誤していましたが、なかなかBくんを変えられませんでした。しかし自分の考えを改め、「長い目で見て、彼を信じてあきらめずに向き合い続けていこう」と大きく構え、指導やサポートをしていきました。

 3年生になったBくん。同じ教室の1・2年生に先輩としてお手本の姿を見せてほしい、という話をすると火が点いてきました。「できた!」と迫力のある声に手をピンと伸ばしたポーズ。ちょっとずつ変化の兆しを感じました。そして4年生になり高学年クラスに入ったBくん。さらなる変化が起きるかなと期待していたものの、算数の授業ノートは何度指導してもルールを守った書き方ができず、宿題はほとんどやってこない。再びどうしたものかと壁に当たりました。しかしよく考えてみると、2年生のときから考えれば彼は間違いなく大きく成長しています。点だけしか見えていなかった自分を反省し、彼と出会ったときのように大きく構え直して再び指導をしていきました。

 そして5年生になってからのことです。教室に残ったBくんが、「先生これ見てよ!」と、学校で習ったプログラミングのゲームやお絵描き用のコピックペンを見せてくれました。低学年クラスのときに取り組んでいたキューブキューブを見つけるとと言って、夢中になって好きな形を作っていました。花まるで過ごした日々が彼の心に残っているのだと感じて嬉しく思いました。また、ゲーム好きが高じて、IT関連のニュース記事を新聞記者さながら作文に書き起こすこともありました。「これはやばいでしょ! ビッグニュース!」とニヤニヤしながら詳細を話してくれます。作文に熱が入った日は時間を気にせず納得するところまで書ききってから帰ります。「さようなら!気をつけてね」と声をかけると、「さようなら~~~!」と言って、Bくんは全力疾走で帰ります。こちらから見えなくなるまで見送るのが恒例になっていました。そして、「あれ?なんだかBくんがこんなに心を開いてくれているぞ」「取り組む内容にも深みや幅がでてきているな。いつの間に?」あるときふと、気づきました。

 Bくんは6年生で最後のサマースクールに参加しました。選んだのは港町のコース。偶然、私もそのコースを担当することになりました。彼はリーダーシップを張るタイプではないですが、なんだかんだ後輩の学年の子たちに好かれていました。気づけばチームの中心のような存在に。そんななかで、Bくんが発する「ありがとう」の多さに気づきました。「Bはすごいね。いろいろなことに気づいて「ありがとう」が言えているね」と話すと、「『6年生はみんなにありがとうを伝える感謝の学年だ』って教えてもらったんだ」と誇らしげに話してくれました。低学年の子たちを助け、自分自身も楽しみ尽くしたBくん。そのコースで、私は彼と灯台の光を見ていました。

 Bくんと過ごした5年間の軌跡と、たくましく成長したBくんの姿。彼に必要だったのは、大きなきっかけではなく、自分の成長を信じて見守ってくれる存在だったのかもしれません。これからも「灯台の光」のような花まるの先生でありたいと、Bくんと過ごした日々を通して再確認しました。

花まる学習会 町田光優(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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