【花まるコラム】『ドヤ顔天使』大塚由香

【花まるコラム】『ドヤ顔天使』大塚由香

 年中さんの授業中。アルミホイルで作った剣を両手に持った男の子が言います。「おれ、いま最強」。年長さんの男の子が一番早く教室にやってくると、歌いながら準備を始めます。「おれいちばーん♪ぜんぶいちばん♪」。そんなときの、子どもたちのドヤ顔が私は大好きです。こちらを見据える力の宿った瞳。口の端がニヤリと持ち上がり、小鼻はちょっと膨らんで、ほっぺたは少し赤くなって。もちろん、子ども一人ひとり表情は違います。ちょっとはにかんだ感じだったり、あえて口元は笑わないようにしていたり、本当に心から笑っている笑顔であったり。しかしどれも、「ぼく・わたしって、いいでしょ?」と自分を肯定しているときの表情です。クラスのなかでも、素敵なドヤ顔があちこちで炸裂しています。

 お正月あそびの「かきぞめ」の会で、紙の上に走らせていた大筆だけでなく、ママの小筆ももぎとり両手に筆を持つと、うるんだ目を大きく見開いて実に満足そうだった1歳の女の子。はじまりの歌で名前を呼ばれて、自分なりのお返事がバッチリ決まったあと、みんなからの拍手を味わうように見渡す1歳の男の子。「せんせー」と控えめに呼びかけて、自分の作品をそっと見せてくれたときの、はにかみながらも得意げな2歳の男の子。自由に、やりたいように、抑圧や制限を受けず、思うままに何かを表現したときや、それを受けとめられたとき、子どもたちはいい顔になります。心が満たされて、「何だってできる」「何にでもなれる」という万能感をもつ彼らはまるで自由に飛び回る羽を持つ天使のようだな、と感じています。

 2013年に13~29歳の若者を対象に「自分自身に満足しているか」という質問をした国際調査がありました。諸外国の若者の70~80%以上が満足していると答えているのに対し、日本だけは45%という低い数値。これを知ったとき、いままで出会った天使たちのドヤ顔が思い浮かびました。彼らがそんな表情をする瞬間がもっともっとあっていい。そして、成長して幼児的万能感が薄れていったとしても、自分を信じて飛躍していける羽を持ち続けてほしいと強く思うのです。

 幼児期に「非認知能力」を育てるべき、ということが言われています。社会のなかで幸せに生きていくために必要な、点数で測れない力。そんな広い意味をもつ非認知能力ですが、つまるところ「個」の力です。本人や周囲の人が強みや魅力を知るということが、特に大切だと考えています。社会のなかで最も役に立ち、自分もまわりも幸せにできるのは、その人が得意なこと・好きなことでイキイキと力を発揮しているときです。「個」を輝かせることが、社会でも活躍できる力を身につけることにつながります。そして、あそびや創作を一緒にすると、「こんな発見ができるのか」「ものすごく集中しているな」「音に敏感なんだな」「お友達とこんなふうにかかわるんだな」と、子どもたちの「個」の輝きがたくさん発見できます。

 先日、1歳クラスで、大人たち全員が爆笑する出来事がありました。はじまりの歌が大好きな1歳さんたち。盛り上がった気持ちを表現するかのように、1人の男の子Dくんがスタッフとハイタッチ。それを見て、隣にいたもう1人のスタッフも手を出して構えます。するとDくん、ちょっと近づいてから…やっぱりやめた、とばかりにスルー。そのタイミングと素振り、ニヤリとした表情に、大人たちは笑わずにいられませんでした。「お笑いをわかっていらっしゃる!」と大人の一人から声が上がりました。最近、そういういたずらっぽい掛け合いを楽しんでいるDくん。きっと成長してからも彼の個性として輝きを放っていくのだろうな、と感じた瞬間でした。お子さんはどんなときにドヤ顔天使になりますか? どんな片鱗が見えているでしょうか? これからもみんなで、輝く「個」の発見をたくさんしていけたら嬉しく思います。

花まる学習会 大塚由香(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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