【花まるコラム】『認め合う』 菊地健斗

【花まるコラム】『認め合う』 菊地健斗

 花まる学習会では月に1度「特別授業」をおこなっています。通常授業とは異なる雰囲気・内容。異学年混合チームでおこなう授業のため、子どもたちも楽しみにしている時間です。

 今月の特別授業は「国語大会」。日々何気なく使う「言葉」「文字」にかんするゲームをおこないました。同じ意味でも言い方が各地で違う「方言」は、子どもたちにとって新しい世界を知るきっかけになったことでしょう。ちょうど私が山形県出身ということもあり、子どもたちに「本物の方言」を聞かせました。
「はだげしごどして、こわいず~」
子どもたちは別の言語に触れたような表情で聞いていましたが、徐々に考察を始めました。「畑仕事はわかった。それをするとどうだろう。疲れる!」なんと答えにたどり着きました。そうです、標準語に変換すると「畑仕事をして疲れたよ」になります。山形県では「こわい」という言葉で恐怖と疲れた様子の両方を表します。子どもたちはもともと知っていたわけではありません。「こわい」の前の文から状況を読み取り、想像をめぐらせ、仲間と話し合い、一つの答えを導き出しました。こういった「仲間と協力する」経験ができるのが大会の醍醐味でもあり、私が大切にしている部分です。

 もう一つ私が大切にしていることがあります。それは「認め合う」ことです。冒頭でも述べた通り、大会は異学年混合のチームで協力し、ゲームに取り組みます。そのなかで自分の考えをチーム内に共有し、検討を重ねます。考え方は十人十色。自分とはまったく違う考えにも出合うことでしょう。最初はそのことに衝撃を受けて、「なんだそれ」「違うだろう」という感情を抱いてしまうかもしれません。
 私も低学年の時期に同じ経験をしました。洋服を畳むことが好きだった私は、自分なりの「きれい」を意識して畳んでいました。いま思い返すとただぐるぐる巻きにしていただけですが…。それを見た母親が「こう畳むときれいだよ」とよりきれいな畳み方を教えてくれましたが、なぜかそれを受け入れることができず、「こっちのほうがいいじゃん」とひたすら自分の畳み方を貫き通しました。あのとき受け入れていれば、さらにきれいな畳み方を知ることができただろうと思うばかりです。

 自分とは違う考えを受け入れることで広がる世界、視点があります。たくさんの違いを受け入れ、吸収してほしいと願い、子どもたちに「認める」ことを伝え続けています。すると今回の大会で子どもたちに変化がありました。

 Eくんが「おれはこう思うな」と自分の考えをチーム内に共有すると、「そうかもしれないなあ」と頷きながら受け入れるSくん。「あっ!」という表情とともに新たに考えが思いついたHくんが「これはどう?」と共有すると、「すごい!」と大盛り上がり。以前は「違うでしょ!」という批判に近い声もありましたが、今回は自分ごととして受け入れ、認め合っているのです。

 また、大会ではチームで輝いていた数人に貴重なMVPシールを贈呈しています。これを受け取ることができないとなると悔しいですし、もらえた子を称えることが難しいときもあります。ですが今回の贈呈の瞬間、受賞したTくんに「おめでとう!」と教室にいる子どもたち全員が惜しみない称賛を贈っていました。全員がいい表情で拍手を送り、Tくんも思わず笑みがこぼれ、「やった!」とガッツポーズをしていました。

 人は日々多くのことを吸収し、成長していく生き物です。特に子どもたちの吸収スピードは大人よりも速く、たくさんのことを学んでいます。だからこそ、自分以外の価値観や考え方に触れて、自分と何が違うのか知り、その違いを受け入れていくことが大切なのです。見えていなかった角度から見ることができるようになり、新たな思考が生まれてくるかもしれません。拒絶することはもったいないことです。

 いろいろな考え方の人がいるからこそ、楽しい。そんなふうに「自分との違いを知り、受け入れ、楽しめる」、そんな教室にしてまいります。

花まる学習会 菊地健斗(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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