【花まるコラム】『一番近くの応援団!』 宮阪太久哉

【花まるコラム】『一番近くの応援団!』 宮阪太久哉

 日々わが子と接していると「なんでこんなことに時間がかかるんだろう?」「なんで同じことにつまずいて成長しないんだろう?」などもどかしくなることはありませんか。先日、ある保護者の方から「うちの子、負けず嫌いでできないと騒ぐくせに、私が何か言うと口答えばかりしてきて困っています!」といったご相談がありました。

 そのようなとき、私はYちゃんの話をお伝えすることがあります。以前担当していたYちゃん。二人姉妹の長女で、しっかり者。性格はとにかく負けず嫌いでした。Yちゃんが年長の頃、花まる学習会の思考実験大会「ぶんぶんごま」の回では、こま回しを一生懸命練習してきたにもかかわらず、授業中になかなか回すことができませんでした。家に帰ってからお母さまの前で大泣きをしたそうです。お母さまは彼女の話を聞きながら、まず気持ちを受け止めました。そして、気持ちが落ち着いた頃、突然Yちゃんが姿を消したと思ったら、自分の部屋に閉じこもり、コマを回す練習をひたすらしていたそうです。お母さまは何を言うでもなく、その様子をそっと見守りました。Yちゃんは、諦めずさらに1週間練習し、次の週にはとても上手に回す様子をはにかみながら私に見せてくれました。 

 その後、Yちゃんが小学1年生になったとき、一歩前へ踏み出したできごとがありました。お友達のAちゃんはたくさん手を挙げて発表をする子でした。Yちゃんは、それまで勉強面はゆっくりでマイペースでしたが、Aちゃんに刺激され、次第に手を挙げるようになりました。お母さまは、そんなYちゃんの姿を見て、マイペースだった彼女が発表することに意欲をもってやっている…と変化を感じたのでした。

 また、Yちゃんは高学年からテニスを始めました。しかし、最初は上手くボールを飛ばすことができません。しかし、遠くへ打ってしまったボールをめげずにたくさん拾っていました。毎回、毎回、ただただ、必死に。

 その姿を見ていたお母さま。「ボール拾いをあんなに一生懸命やっていたのは、あなただけだったよ」とYちゃんに伝えたそうです。その言葉はYちゃんの胸に残り続けました。そして、また夢中になって練習を続けたそうです。その後、Yちゃんは中学校のテニス部の一番手になりました。

 つい先日、中学生になったYちゃんに会いました。「何をするにも諦めない気持ちが昔から本当に強みだったよね」と、懐かしい気持ちで話を進めました。すると、「何事も、最初は『悔しい』『負けたくない』という気持ちでやるのですが、途中からただ夢中になっちゃうんです」と言っていました。「年長のコマのときのこと覚えている? あのとき、できなくて悔しがっていたよね」と話を持ち出してみると、「もうあまり覚えていませんが、悔しいというよりも回すこと自体が楽しくて夢中になった記憶がなんとなくあります」とのこと。もっとできるようになりたい、もっとうまくなりたい…その気持ちで努力を重ねていくうちに、そのものに夢中になっていく。

 その背景には、陰から温かく見守っているYちゃんのお母さまの存在がありました。お母さまは、「なんでできないの?」や「こうしなさい!」などということは言わない方でした。低学年の頃にお母さまとお話をすると「うちの子は3月生まれなのでゆっくりなんですよ。できないとすぐに泣いていますし」と、いつも笑いながらおっしゃっていました。そして、Yちゃんが高学年になった頃、お母さまとお話ししているときに、「実は、いろいろ言いたくなる場面ばかりでしたが、Yを信じて頑張って我慢していました」と、本音を教えてくれたこともありました。だからこそ、Yちゃんは、安心してどんどん伸びていったのだと納得した瞬間でした。

 子どもたちが何かにうまくいかず、もどかしい気持ちでいると、ついつい口を出したくなることもあるでしょう。ただ、そのときの子どもたちを見てみると、こちらが想像している以上にそのことに向き合って考えていたり、次に向けて気持ちを新たにしていたりすることがあると感じます。
「信じて見守る」
その尊さをこの親子と出会って強く感じました。

花まる学習会 宮阪太久哉(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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