【花まるコラム】『集中力』菅原忠

【花まるコラム】『集中力』菅原忠

 今回は「集中力」をテーマに考えていきたいと思います。もしかしたら、オンライン授業でのお子さまの様子を見て、「うちの子は本当に集中力がないな」と感じられた方がいらっしゃるかもしれません。まず大前提として、人は集中力を長時間保つのは難しい、と捉えておく必要があります。そして、集中力の保ち方にも持続時間にも、個人差があります。

 1年生のAちゃんは、聞きなれない物音がするとそれが気になり、パッと手を止めて視線を音の先に向けることが多々ありました。花まるの授業は声を出しますし、決して静かな環境ではないため、入会時からAちゃんが集中力を保てるかを親御さんがとても心配されていました。しかし、授業に参加し続けるうちに、そこで発せられるほかの子どもたちの声や音が日常の音としてインプットされ、特段気になるものではなくなったようです。これまで経験したことのないできごとも、幾度も繰り返し経験すると習慣化され、日常として溶け込むようになるということです。また、ある機関の研究によると、無音の環境よりも70db程度(繁華街やバスの車内などと同程度)の雑音がある環境のほうが創造力が増すという結果も報告されています。私自身も静寂に包まれた環境では逆に息が詰まると感じた経験があります。カフェで仕事や勉強をするほうが捗るという人もいますが、理にかなっているのかもしれません。
 音だけではなく、視覚情報が気になって集中力が保てないというパターンもあるでしょう。視線の先で何かが動いたり落ちたりする、あるいは色の変化などが気になるということもありますが、その場合は極力視覚情報がシンプルになるように環境を整えてあげるというのも一つの方法です。白色には気持ちを興奮させる効果があるようで寝室には向かないなど、「色」が与える影響も少なからずあります。子どもたちの行動をよく観察していると、常にキョロキョロといろいろな場所に目を配っている子がいますが、そういう子は視覚から人一倍情報を得ている可能性があります。そのような場合は、周囲の環境を整えることで改善しやすくなります。

 さて、今度は集中力の持続時間についてです。低年齢であればあるほど持続時間は短いでしょう。数分、あるいは数秒ということもあります。「集中力が続かない」と悩まれている場合は、そもそもどのくらいの時間、一つのものごとに集中しているのが理想なのかという具体的な時間のイメージを掴んでおくことが必要です。その理想の時間と、実際に本人が維持できる集中の時間に分単位の差がある場合は、まだまだその理想に到達する段階ではないということになります。いまわが子はどれくらい集中していられるのか、行動観察をしましょう。たとえばじっと座っているのが10秒だとしたならば、11秒以上座っていたときに大いにほめてあげましょう。集中できていないことを指摘するのではなく、いまの状態を超える行動を取ったときに大いに認めてあげるというイメージです。
 「静かにじっとする時間」「整える時間」を習慣として取り入れるのも一つの方法です。おすすめは、食事のときです。手を合わせて目を閉じ、10秒数えてから「いただきます」と言って食べ始める。また、集中力を高め最大のパフォーマンスを発揮したいときに大きく深呼吸をすることがありますね。行動の区切りに一度呼吸を整えることで気持ちが切り替わるという例ですが、何事も習慣化が肝です。いつもやっていないことはなかなかできませんが、外出の際には必ず靴を履くように、当たり前のこととして生活に組み込んでしまえば、何不自由なくできるようになります。

 一人だと学習に集中できない場合は、友人と一緒に学習する時間を設けるというのも大事かもしれません。一人で没頭できるタイプの人もいれば、誰かと伴走しながらのほうがパフォーマンスが向上するタイプの人もいるでしょう。学習に最適な環境は一人部屋なのか、あるいはきょうだい一緒、家族との共有スペースなのかというのも、本人の特性によりけりということです。

 「集中力を高めなきゃ!」と頭で考えるよりも、環境を変化させることで行動を促すほうが得られる効果は大きいのです。

花まる学習会 菅原忠(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

花まるコラムカテゴリの最新記事