【松島コラム】『違和感』 2023年10月

【松島コラム】『違和感』 2023年10月

 算数の授業での演習中、間違った方向で解いている生徒を見つけても、口を出さずに見守っていることがあります。案の定そのまま答えが出ずに頭を抱える子もいれば、途中で手が止まり、間違い始めた地点に戻って考え直す子もいます。後者の子のなかには、「あっ」とひらめいた様子で一気に鉛筆を走らせ正解にたどりつく、そんな光景も目にします。まさに「あっぱれー!」です。一度答えを出したにもかかわらず、全部消して最初からやり直す子もいます。「なぜ答えが出たのにやり直したの?」と聞くと、「なんとなく間違っているような気がしたんです」と言うのです。迷路の問題のように行き止まりがはっきりわかれば戻ることはできますが、答えが合っているかどうかわからない状況で、もう一度やり直そうとする、その勇気と根気に拍手ですね。
 確信を持てていない状況でも、この違和感を大切にできる子は、長期的には安定した結果を残すことができます。特に実力相応か、少し上のレベルの問題に出合ったとき、この違和感が紙一重の差につながることもあります。
 この違和感は、算数が得意な子だけが持っている感覚かと言えば、私はそうとは思っていません。もちろん算数の知識や正確な計算力、読解力、経験知などが必要なことでもありますが、算数が特別得意ではない子でも、「この答え、なんとなく変だと思わなかった?」と聞くと、「そんな気がしたんですが…」と答えるのです。「どのあたりから違うような気がしたの?」と聞くと、ポイントをズバリ言い当てることも多いのです。ではなぜそこで立ち止まらなかったのか。あるいはその地点に戻って考え直さなかったのか。それは、そのなんとなくの違和感よりも「答えを出すこと」のほうが勝ってしまったからなのです。確かに答えを書かなければ点数はもらえません。しかし間違った答えを書いても点数にはなりません。ここで思い浮かぶシーンがあります。答えに自信がなく、解答欄を空欄にしていた子に対して、「答えを書かなければ点数にならないんだから、とりあえず何でもいいから解答欄は埋めなさい」と大人がアドバイスをする。言われた通りに当てずっぽうで解答欄に「2」と書いたら正解だった。本質的にはまったく喜べない話です。最近では答えだけ合っていても途中式がなければ点数を与えないという入試もあります。
 試験では一度出した答えに違和感があってもやり直す時間はほとんどありません。計算問題や小問の見直しはできても、大問と言われる大きな問題の見直しは現実的には難しいのです。だからこそ途中で間違いに気づき、軌道修正をする力が大切になります。「わかっていたのにできなかった」というケースは、軌道修正ができていたら解けていたという場合も多いのではないかと思います。
 本当は迷うことなく正解にたどりつければいいのですが、私たち大人の世界でも、そううまくいくことはめったにありません。試行錯誤を繰り返しながら何とかゴールにたどりつくようなことばかりだと思います。算数が得意な子でも、一直線で正解にたどりつける子はいません。全員と言っていいほど、修正をかけながら答えを出しています。
 学習面に限らず日常生活のなかでも、子どもが「何か変」「どこかおかしい」と感じる場面があれば、ぜひその感覚を大切にしてあげてほしいと思います。できれば一緒にその原因を探ってみる。それも一つの探究学習です。
 中学受験・高校受験とも本格的な模試のシーズンに入っています。模試はマラソン大会、入試は個人種目。最終的には個人種目でいい結果を残せばいいのです。最後まで子どもを信じて温かい応援、よろしくお願いいたします。

スクールFC代表 松島伸浩


🌸著者|松島 伸浩

松島 伸浩 1963年生まれ、群馬県みどり市出身。現在、スクールFC代表兼花まるグループ常務取締役。教員一家に育つも、私教育の世界に飛び込み、大手進学塾で経営幹部として活躍。36歳で自塾を立ち上げ、個人、組織の両面から、「社会に出てから必要とされる『生きる力』を受験学習を通して鍛える方法はないか」を模索する。その後、花まる学習会創立時からの旧知であった高濱正伸と再会し、花まるグループに入社。教務部長、事業部長を経て現職。のべ10,000件以上の受験相談や教育相談の実績は、保護者からの絶大な支持を得ている。現在も花まる学習会やスクールFCの現場で活躍中である。

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