【花まるコラム】『「未知」とのであいの積み重ね』大塚由香

【花まるコラム】『「未知」とのであいの積み重ね』大塚由香

 ある保護者の方からのクラス後の感想「感じたことキロク」に、ハッとする発見がありました。その日は、以前教室に通っていたお姉ちゃんも一緒に、姉妹で参加された回でした。妹さんが目の前の道具に次々と手を伸ばし「これ何だろう?」と探究するのに対して、お姉ちゃんはその日のテーマである素材 「粉」にいち早く注目。粉に水を入れて変化させることに没頭していたそうです。 2人のあそび方の違いに注目したお母さん。 お姉ちゃんは、これまでのクラスでのあそびを通して「初めての経験」を積み重ねることで、幅広く応用してあそぶことができるように成長していたのだと気づいた、というものです。初めて出合う素材でのあそびを繰り返しているうちに、また別の未知の素材が出てきても、「ココがおもしろそう!」とあたりをつけたり、あそびの幅を広げたりすることができるようになる。それは、クラスで見られる子どもたちのあそびの進化そのものです。そして、素材を「問題」に変えても同じことが言えます。小学生コースの思考力教材では、見たことのない問題を正解不正解にこだわらず楽しみながら解くことを続けていくと、いつの間にか高レベルの思考力問題にも挑む力がついている、ということが実際に起こっているからです。あそびも同じで、「未知とのであいの積み重ね」にこそ成長のカギがある。そう改めて教えてくださったキロクでした。

 こちらが用意するまでもなく、子どもたちは日々、初めての経験のなかで成長していきますね。1歳2か月になったわが家の次女も、自分が取りたいものに手が届かない「悔しさ」、ほしいものを渡してもらえた相手への「ありがとう」、大人の反応がおもしろくてわざと繰り返す「いたずら心」など、「いま、初めて心からこの感情を味わったんじゃないか」と思える瞬間がいくつもありました。先日、おもちゃに手を挟んで、火がついたように泣き出したときもそうです。初めて体験する「鋭い痛み」という未知の感覚に対して、「何これ~!?」と衝撃を受けているのだなと感じました。同時に、この「痛い」を知れてよかったね、とも思いました。悪気なく爪でひっかいたり、髪を引っ張ったりする彼女に「痛いよ!」と言い聞かせてみても、いまひとつ伝わりません。そんなこの子にとって、よくやる頭ゴッツンとはまた違う、鋭い痛みは貴重な初体験だったと感じました。

 私たち大人は、そういう経験を積み重ねてきたわけですが、「いままでにない」状況に置かれれば「初めての感情」を経験することがいまもあるはずです。ある素敵な先輩ママが、「私は善良な人間だと思っていたんだけれど、夜泣きしている子どもの隣で寝ている夫に初めて『殺意』っていうものを覚えて衝撃だった」と真剣に語っていたことがあります。そのときは噴き出してしまいましたが、私自身も「こんなに心の余裕が持てないことってあるの!?」と自分の黒い感情に愕然とする期間が、つい最近ありました。長女も夫もできる限り協力してくれているのに、イライラして当たってしまう。夫から「どうしてほしいの?」と聞かれても、口をついて出るのはしっくりこない些末なことばかり。さすがにまずいと、心当たりを紙に書き出してみて行きついた原因は…「思い通りにいかない小さなストレス」の蓄積でした。寝たいのに寝られない、好きなペースで食事ができない、トイレはタイミングを見計らって。そして、いま集中したい、やりきってしまいたいのにできない。誰も責められない、仕方ないと自分を納得させていたけれど、本当の心は全力で悲鳴をあげていたのだと初めて気づきました。大丈夫なフリをしていたけれど、本当はキツかった。状況をガラッと変えることはできなくても、そう認めるだけで少し心が凪いだ感覚があったのです。

 この「未知とのであい」もまた、意味のあるものに思えてなりません。「いままでにない状況」や「何だかわからないモヤモヤ」を経験することそのものが自分を再発見することになり、何かしらいい変化にもつながっていく。日々成長する子どもたちと伴走する私たちの暮らしのなかには、そんなチャンスも隠れているのかもしれません。

花まる学習会 大塚由香(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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