季節が夏から秋に変わり、木の葉が色付きはじめ、朝方、夕方と少しずつ肌寒くなってきました。7月から始まった対面での授業も、4か月が経とうとしています。感染対策を講じた授業スタイルなど、さまざまな環境の変化に対して、子どもたちの順応は素早く、「なんだか学校にきているみたいで楽しい!」という前向きな声をよく耳にします。
昨年から通われている方はご存じかと思いますが、花まる学習会では、机同士をくっつけてグループでおこなう授業スタイルでした。たとえば、キューブキューブ(ブロックを使い、見本と同じ形を作り上げ空間認識を養う教材)では、自分ができたら終わりではなく、グループ全員で完成させることを目指します。そのため早くできた子は悩んでいる子の近くまで行って教えたり、応援をしたりと協力している姿がたくさん見え、始めはお互いのことを知らなくても自然と子どもたちの「心の距離」が縮まっていました。
今年度は授業スタイルが変わったため、1人でさまざまな教材に取り組むことが増え、始めは戸惑いを見せていた子どもたちでしたが、それでもいまの環境のなかでできることを探し、毎回の授業で多くの成長を見せています。たとえばキューブキューブでは、席にすわったまま友達に見えるように教えている姿や、遠くに座っている1年生を応援する姿など、この環境のなかでできることを精一杯おこない、子どもたち同士の「心の距離」が近づいているように感じます。
つい先日、2年生のRくんが入会しまた。花まるの元気な教室の雰囲気に圧倒されて緊張している様子と不安な気持ちが伝わってきました。そんなRくんに対して、同じ学年のSくんが「次はこれをやるんだよ」と声をかけてくれたところ、ゆっくりと動き出したRくん。Sくんがかけてくれた一言でRくんの緊張が少しずつほぐれ、前向きな気持ちに変わっていったように見えました。
授業が始まり、子どもたちにRくんの紹介をし、まわりに座っていた子たちに「困っていたら助けてあげてね」と伝えました。すると、隣に座っていたSくんが「もう友達だからまかせて!」と力強く言いました。それを聞いたRくんからは笑みがこぼれ、あっという間に教室が温かい雰囲気に包まれました。Sくんが恥ずかしげなく発したことに驚いたのも事実ですが、何より出会って数分しか経たない子に対してそう言えるSくんの心の広さを嬉しく感じました。
その後も、Rくんにキューブキューブの組み立て方や次に使う教材を教えているSくんの姿が見え、2人の心の距離がどんどん近づいていっているようでした。またその姿を見たまわりの子たちもRくんに声をかけ始め、教えあうようになりました。みんなから教えてもらっているRくんの表情にはもう始めのような緊張はありません。Sくんはもともとまわりを巻き込んでいく力があり誰にでも声をかけることができる子です。今回の彼の何気ない一言がきっかけになり、それが教室中に広まっていく、子どもならではの言葉の力を感じ、素敵な瞬間を見ることができました。
授業のスタイルが変わっても、一人ひとりの優しさや友達を思いやる気持ちなどすばらしい瞬間があり、子どもたち同士でより高めあう姿が教室にはあふれています。また「知らない子」と距離を置いてしまうのではなく、自然とまわりの子に手を差し伸べられる子どもたちを頼もしく感じています。
「距離」を取らなければならない状況ではありますが、それでも「心の距離」が近づいていけるのは、子どもならではの特性だと思います。その特性を生かせる花まるの授業で、子どもたちがどのように成長していくのか、学習面のみならず、人間関係を築いていく姿を今後も見守っていきたいと思います。
花まる学習会 元吉遥子(2021年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。