先日、実家に帰った際、母に
「このトロフィー、どうする?」
と言われました。そのトロフィーは空手の試合で初めてもらった、私の大切なものの一つです。私は幼い頃、空手に熱中していました。小学1年生から中学3年生まで習っており、当時は空手漬けの日々を送っていました。そのトロフィーを見て、当時の思い出が蘇ってきました。
小学1年生のとき、父に「強くなりたい!」と伝えて連れて行ってもらったのが空手の道場でした。体験を受け、やってみたいと思い、始めました。自分から何かを「やってみたい」と伝えたのが初めてだったので、そのときのことをよく覚えています。そして、いざ始めてみると、体格のいい強いお兄さんお姉さんたちに囲まれ、圧倒される日々。体が小さく泣き虫だった私は、自分から「やりたい」と言ったものの、だんだんと行きたくなくなり、お腹が痛くなったり、泣いたりしていました。そんな状況を見かねて動いてくれたのが、父でした。父は、「○○がやりたいと言ってくれて嬉しかった。始めたばかりだから思い通りにいかなくて当然だよ」と真剣な表情で話してくれたのです。父の言葉を聞き、できなくてもいいんだと気持ちが楽になりました。もう少し頑張ってみようと、その日は、稽古に向かうことができたのです。帰宅すると父からのプレゼントがありました。それは、ミットです。家でも練習ができるようにと用意してくれたものでした。その日は嬉しくてたくさん練習しました。しかし、自主練習は続きませんでした。父は「せっかくあるんだからやりなさい!」と当時は言いたくて仕方がなかったそうです。しかし、それをグッとこらえて、「今日はやってみる?」と毎日めげずに声をかけ続けてくれました。父の粘り強さの甲斐あって、少しずつ練習に取り組み始めました。褒めてもらえるのが嬉しくて、そこから、毎日必ず2分は行うというのが習慣になりました。習慣化できた秘密は、父の声かけです。
「今日は50メートル吹き飛ぶ蹴りだったよ!」
「120キロのお相撲さんを倒せる突きだったな!」
とゲーム感覚で楽しませてくれたのです。仕事で疲れている日もあったと思います。それでも小学校6年間、とことん付き合ってくれました。続けることによって、実力も伴い、空手が楽しくて仕方がなくなっていきました。結果を残せるようになったこと、父の特訓があったから空手を9年間続けられたことは自信にもつながりました。
子どもたちは、「楽しい」と思う意欲があれば、何でも続けることができます。いまでも、父の言葉や行動は鮮明に覚えています。大好きなお父さんやお母さんの言葉だからこそ頑張れます。つい「やりなさい」と言ってしまうときがあるかもしれません。そのようなときは、保護者のみなさまと連携し、教室でも子どもたちの意欲を育む声かけを続けてまいります。
花まる学習会 渡邉みなみ(2021年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。