昨年7月、初めて教室に来たある年長の男の子。その日、机まわりには筆記用具、テキストがあちらこちら床に散乱しておりました。そのスペースを歩くためには、床をよくみて足をゆっくり動かさないといけないほどです。授業中、興味のあることに目がいき、教室を歩いていることが日常茶飯事で、常に講師のサポートが必要でした。それから数か月後のある日の授業開始前、突然「せんせい、もうじゅんびできた!」とテキストのはじめのページを開いた状態で教えてくれました。その顔は自信満々でした。この日を境に少しずつですが離席が減り、机まわりも我々が気にすることはなくなるほどでした。何の前触れもなく突然の変化だったので目を疑いました。同時に頼もしさも感じました。
次は、1年生の女の子。昨年4月から6月はコロナ禍により、花まる学習会はオンライン授業でした。人見知りでどうしても恥ずかしさもあり、授業では画面から思わず隠れてしまうこともありました。7月から教室の授業が再開しましたが、大勢のなかに溶け込むことは至難のことで横にお父さまがいらっしゃいましたが、どうしても甘えてしまい、テンポ感のある授業ペースについていくことが難しく、彼女にとって大きな心の壁でした。決して勉強が嫌いな訳ではありません。本当はみんなと教室で授業を受けたい、でもあと一歩が踏み出せないもどかしさを長い期間経験しました。それが11月に入ると、これまでとは大違い。授業は一人で参加して「これまではなんで泣いていたんだろう」とお父さまに話をするくらい自信がついていました。つい先週の授業では、私が、物語を音読したあとにクイズを出すと、自分から挙手をして発表もしました。その姿に迷いはありませんでした。まるで別人のようになった瞬間でした。
最後は3年生の男の子。昨年9月頃、作文が書けずお母さまからご相談いただきました。確かに作文を書き始めるまで時間がかかり、そのまま授業を終えることも度々ありました。何とか書こうと題材を決めても、授業を終える数分前ということも。その後、毎週毎週「何を書く?」「…(好きな昆虫の絵を描く)」が続きましたが、12月頃になると自分から書き出すことが増えました。そして今月の授業では、教室に来ると「今日の作文に書くこと、決まったよ!」と彼から教えてくれました。まさか彼からその言葉を聞けるとは思いませんでした。
今回の3名は私に驚きをもたらし、同時に喜びを与えてくれました。私の心が大きく揺さぶられた時間でもありました。数か月後なのか、1年後なのか、いつ変化するかは誰にもわかりません。ただ、ある日突然、人が変わったような発言や行動をとります。それはサプライズの感覚に近い気がします。一人ひとり特性が異なるため、成長の仕方も同じではありません。それぞれの子にとっての成長があり、傍から見たら当たり前のことかもしれません。しかし、さまざまな子どもたちと接している身として、“当たり前なこと”という概念はなく、いま、目の前の子にどう接すると良いかしか頭になく、目先にとらわれず、時間をかけて子どもたちを信じ、突き進んだ結果がその子だけの成長としてあらわれます。それを実感できたときの感覚は格別なことだと私は思います。
花まる学習会 舟橋一夢(2021年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。