【花まるコラム】『心はうごく 』町田光優

【花まるコラム】『心はうごく 』町田光優

 先日のサマースクールで「筋ジストロフィー」という病気を抱えた小学2年生「Iくん」の個別リーダーを担当しました。男子班のなかにメンバーの一員としてIくんと私が加わります。フェリーに乗って港町を探検するコースで、徒歩と車いすの利用を併用するため大きな問題はないはずですが、Iくんが班の動くスピードについていけるか、Iくんが班のメンバーとうまく過ごせるか。私もIくんのお母さんもそんな心配をしていました。

 そしてついに出発の日。ニコニコのお母さんと一緒に少し緊張した面持ちで登場したIくん。私もドキドキしていましたが、彼の
「こんにちは!」
という元気な挨拶にこちらも少し安心しました。Iくんは平らな道を歩くことはできるのですが、段差や坂道の歩行は難しく、フェリーの船内を移動するときに、わずか数センチの角度がついた傾斜を歩くときでさえサポートが必要でした。Iくんは階段を自分で上っていくことがほとんどできません。ですが、
「リーダー、ちょっと手伝って!」
「ここは行ける!」
と、上手く私に頼りながら、ときには自分で挑戦しながら、船内の探検を楽しみました。ちょっとしたことでもIくんにとっては大冒険です。

 宿に着くと私もIくんもほっと一息。ここまでは私と過ごす時間が多かったのですが、ここからは班の仲間と過ごす時間も増えていきます。
「Iくんは大丈夫かな?」
という私の心配をよそに、Iくんはあっという間に班に溶け込み、メンバーの一員になっていました。班の仲間もIくんの病気のことは良い意味でほとんど気にせず、サマースクールを一緒に楽しむ仲間として気持ちよく迎えてくれました。

 いよいよ本格的な活動開始。Iくんは「これがしたい!」という意欲にあふれていて、班の先頭を切るように私はIくんと動きました。そして実は電車が好きなIくん。名物の浜金谷駅を通る電車を見るために時刻表を見て、あっという間に電車が通る時間を覚えるほどの記憶力を発揮します。宿のなかでも電車が通る時間が近づくとうずうずしていました。そして、
「そろそろ電車の時間だよ!行こう!」
とIくんの号令がでたのをきっかけに、宿のなかからあわてて飛び出し、車いすに彼を乗せて私も駆け出します。最初は安全走行で進めていると、
「もっと全速力で!」
と求められました。こちらも息絶え絶えに走行していると、電車が見えるポイントに到着。ジャストタイミングで電車が通ります。Iくんは車いすを急いで降りて駆け出し、じっと見つめていました。「満足したかな」と思うと、
「次は何時何分?」
とその目はギラギラとしています。私の体は悲鳴をあげながらも、Iくんの好奇心や意志力に振り回される時間が嬉しくもありました。
そして2泊3日もあっという間に過ぎ、最終日。
「どうしてこんなにあっという間なの!」
とIくんも驚いていましたが、それほどまでに密度の濃い時間を過ごしきったのでしょう。帰りのバスでは急に静かになったIくん。窓から外の風景をそっと見ている様子に、「少し疲れたのかな」と、そう思っていました。解散場所に到着し、お母さんへの引継ぎのときも黙ったままでした。
「あ!わかった!寂しいんだろ~!」
とお母さんに茶化されます。すると、被ってた帽子でぎゅっと顔を隠し、堰を切ったように涙があふれだしたIくん。その姿を見たお母さんも思わず涙。そして私も、
「Iくん、がんばったことたくさんあるもんなあ」
「お母さんに話したい思い出がたくさんできたなあ」
と、この2泊3日で兄弟のように過ごした時間がフラッシュバックし、目頭が熱くなりました。最後は互いに
「またねー!」
と言い合って、すがすがしい気持ちのなかIくんのご家族は帰っていきました。

 振り返れば、こちらの心配はなんのその。子どもらしく思い切り楽しみ尽くしたIくんのサマースクール。体が自由に動かせなかったとしても、Iくんの心は動き、一瞬一瞬を全力で楽しむ姿がありました。それを一番近くで見守ることができたのだと考えたときに、幸せな仕事をさせていただいているという感謝の想いと、子どもたち一人ひとりの輝きを常に引き出し、心を動かす教育者でありたいと感じました。

花まる学習会 町田光優(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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